織姫のトキメキハイスクール


 第2回 「織姫、萌えキャラ修行をする、の巻」



 時は200X年
 電脳のとある場所に、萌神様がまつられているという
 なぞの学園あり
 人呼んで、さざなみ学園
 そこでは、美少女たちの萌要素を集め、夜な夜な萌え萌え祭りをおこなっているという。
 そんなさざなみ学園の生徒として、勉強をしている乙女がひとり。
 名前は七夕織姫(たなばた おりひめ)。
 一人前の萌えキャラには程遠い彼女だが、
 このちょっぴり不思議な学園で今日も勉強にはげんでいるのだ。


「で、あるからして…」
 社会科教師の退屈な話が続く。
「ねえねえ、みかちゃん、昨日のテレビ見た?」 
「見たよー」
「すごかったよね、主役メカが飛行機とロボットの中間形態みたいなよくわかんないのに変形してさ…あれ意味ないよね!」
「その言い方はメカデザイナーさんに失礼じゃないかな…」
 織姫は、授業そっちのけでおしゃべりに夢中のようだ。

「では次の問題だが…織姫くん!」

「織姫ちゃん、呼ばれてるよ」
「あ、いけない。はーい」

「織姫くん、ちゃんと先生の話を聞いてたか?」
「もちろんです!」
「じゃあ聞こう。普段はツンツンと素っ気無いのに、好きな相手と二人っきりになると急にデレデレとしおらしくなる女の子のことを何と言う?」
 織姫が聞いてないことを知ったうえで、教師は意地悪な質問をする。あるあるこういう人いるよ。

「えっと〜、あーはいはい。ツンとおすましそれはなあに♪」
 歌うように織姫は答える。
「それは鏡♪かがみの…」
「もういいそれ以上は歌うな。そもそも間違ってるから」
「そんなー!」

「どんまい!」
「どんまい」
「どん」
「どんまいける」
「どんまい」
「まいまい」
「どんまい」
「どんまーい」
「どんまい」
 クラスメイトたちが口々に織姫を励ます。あるあるこういうの。
「ありがとー」

「話を聞いていなかった織姫のためにもう一回説明するぞ。そういう女の子のこと、あるいはそういう様子を、ツンデレと言うんだ」
「ツン…デレ?あの寒いところ…」

「それはツンドラ」
「それはツンドラ」
「それはツンドラ」
「それはツンドラ」
「それはツンドラ」
「それはツンドラ」
「それはツンドラ」
「それはツンドラ」
「それはツンドラ」
 クラスメイトたちが口々に織姫に突っ込む。あるあるこういうの。こういう時だけ一致団結するのな。

「普段の冷たい印象から、恋人だけに見せる甘えた顔のギャップが、男性を萌えさせるんだ」
 うっとりとした様子で社会科教諭が語る。好きなんだろうな。
「萌えキャラを目指す君たちが、ぜひ身につけなくてはならない重要な萌え要素のひとつでもある」
「ふむふむ、そうなんだー」
 と織姫。理解できているのかいないのか、突拍子もなく机の上に立ち上がる。

「先生、わたし、ツンデレになります!」

「織姫ちゃん、パンツ見えてるよー」
 隣の席の東みかちゃんが顔を真っ赤にして注意しているが、織姫には聞こえてない。
「とうちゃんが言ったんだ、お前は天の川に光る萌えキャラの星を目指せと!」
 と、夜でもないのにあてずっぽうに窓の外の空を指す。ちなみにそっちは天の川じゃない。
「萌えキャラの頂点に君臨した暁には、写真集やらCDやら関連グッズが山ほど売れて、うふふ…ヒヒヒッ…アハハハハ!!」

「姫が壊れた」
 副クラス委員長の楓遥(かえで・はるか)が冷静に告げる。
「麗ちゃん、いつものおねがい」
「りょーかい」
 藤本麗(ふじもと・れい)はすくっと立ち上がり、全身に気合を入れる。

「姫、おちつきなさいっ!!とうっ!」
 麗のフライングクロスチョップが華麗に炸裂し、織姫は華麗に吹っ飛ぶ!
「ぶべらっ!!」
 ついでにそのまま床に伸びてる織姫の首に天空×(ペケ)字拳をあざやかに決めてとどめをさすと、悠々と席に戻った。
「おいおい死ぬって」
 一年I組のつっこみ担当ことモヒカン男、神楽坂純一(かぐらざか・じゅんいち)はピクリとも動かない織姫に同情した。

 と思ったらあっさり織姫は起き上がりました。
「おめえつええなー。きいたぞーいまのー」
「生きてるのかよ!しかも下手なものまねまでやる余裕あるのかよ!」

「まあみんな席に着きなさい」
 これまでのやりとりを軽く傍観してた社会科教諭がやっと話を元に戻してくれた。
「織姫くん、何にせよツンデレを目指すのは大変いいことだ。今からちょっと先生を相手にツンデレの実践練習をしてみなさい」
 してみなさいって…先生がツンデレ好きなだけだろう。

「わかりました!先生をわたしのツンデレパワーで萌え殺してあ・げ・る!」
「織姫ちゃん、なんかすごい気合入ってるー。がんばれー」
「ほう、ようし。かかってきなさい」
 ちょっと鼻の下をのばしていた社会科教師だったが、織姫が何かを投げつけるのを見て即座に身をかがめた。
「ちょ、織姫くん、何を…」
 黒板には、するどい槍が突き刺さっている。
「萌え殺すどころかリアルに死ぬところだったじゃないか!!」
「ツンツンを表現してみました」
「ツンツンどころじゃないし!グサグサ刺さってる!!」
「わたしの気合のなせる業?乙女の執念が岩をも貫くってことで」
「貫かんでいい!!」
「えー、そんなー!」

 と、ちょうどここで授業終了のチャイムが校舎に鳴り響く。

「まあ、とりあえず今日のここまでだ」
 先生は教卓に戻り教科書類を片付ける。

「明日の社会の授業では、ツンデレのテストをするからなー。ちゃんと復習しておくんだぞ」

「えー!」
「なんだってー!」
「そんなー!!」
 生徒たちは口々に不満を述べる。あるある。

「特に、織姫はよく勉強しておくように。わかったな」
 そんな捨て台詞を残して、先生は教室を後にしていくのだった。



 そして休み時間。
「テストだってさー。ツンデレなんて全然わかんないよー」
 机につっぷして織姫は嘆いた。ポニーテールも心なしか重力に負けてる感じだ。
「みかちゃん、どうしよう?」
「あと1日あるよ。織姫ちゃん、いっしょに勉強しようよ!」
「みかちゃん、ありがとー!!さすがは心の友!!」
 織姫に抱きつかれながら、みかは思った。
(え、わたし、のび太ポジション?)

「アッハッハッハ、無様だったな織姫」
「むっ、夏樹」
 この天城夏樹(あまぎ・なつき)は織姫とI組の成績最下位を争うライバルなのである。
「なによ、あなただったらできるっていうの?」
「お前よりは上手いよ」
「なんですってー、キーッ!!」
「織姫ちゃん落ち着いて!」

「確かに、夏樹の方がツンデレは得意でしょうな」
「純一くんまで!ひどい!!」
「まあまあ姫さん、夏樹は素でツンデレみたいなものだから」
「なっ…なんだと!!」

「あー。確かにそうかも」
「だね」
 クラスメイト、口々に同意。
「お、お前らオレ様を何だと思ってるんだ!?オレは別にツンツンなんて!」
「そういう態度がツンデレっぽいんだよねー」
「ねー(同意)」

「なんかバカにされてるような気がするがまあいいか。とにかくそういうわけだ」
「どういうわけよ!」
「次のテストはオレ様の勝ちってことさ、まあせいぜい努力したまえ、いくら頑張ってもお前に萌えキャラはムリだろうけどな!」
 笑い声まで残して立ち去る夏樹だった。

「夏樹なんかに言いように言われて、くやしいっ…!!でも、反論できない…!!」
 びくびくぅ!と体を震わせて織姫は怒りに悶える。
「織姫ちゃん、こうなったら頑張ってツンデレをマスターしないと!」
「だよね、みかちゃん!わたしがんばる!!」


 こうして、織姫のツンデレ勉強が始まったのだった。
「ふむふむ教科書によると、はじめのうちは好きな相手にもトゲトゲしい…と」
「いま、数学の時間なんだが…」



 そして、お昼休みの時間。
 織姫はようやく社会の教科書を閉じた。
「ふーっ、どうにか理解できたわ。後は実践あるのみね」
「織姫ちゃん、いっしょにご飯たべよー」
(そうだ、みかちゃん相手に実践しよう!)

「誰があなたなんかと食事なんてするもんですか!!この*****!!」
 さすがに規制が入った様子。
(決まったわ…!)
 会心の笑みを浮かべる織姫の前では、みかが放心のあまり弁当を落っことしていた。

「ぐすっ…」

「みかちゃん?え、泣いてる?なんで?」
 状況がわかってなくておろおろする織姫だったが、みかの全身から殺気がみなぎってきてるのはわかった。

「……織姫ちゃんの、*****!!」
「!!」

 織姫の身体は宙に浮き上がり、それがみかの持つ二つの凶刃―ツイン・テール―によるものだと気づいたときには、すでに織姫の全身は切り刻まれていた。

「がはっ!!」
 そのまま吹き飛ばされた織姫は、教室のガラスを突き破って外に投げ出される。

「織姫ちゃんなんて、もう知らないっ!!」
 みかは泣きわめきつつ廊下に飛び出していった。
たぶん落とした弁当の代わりにパンでも買いにいくんだろう。

「あー、さすがに姫さんも死んだかな」
「生きてるわよ」
 窓からひょっこりと顔を出すと、よっこいしょ、という掛け声とともに桟を乗り越えて教室に戻ってくる。
「I組が校舎の一階じゃなかったら、危なかったわ」
「いや、高さなんてもう関係ないでしょう!」
「まあまあかたいこと言わずに、それよりもなんでみかちゃんは突然暴走したのかしら?」
「それもわかってないんですか」
 純一はため息をつく。

「ダメですよ姫さん。いくらツンでも言っていいことと悪いことがあるでしょう」
 純一は、織姫の意図には気づいていたようだ。
「そういうもんなの?」
「ですな」
 それに、と純一は続ける。
「ツンデレな女の子の好きな男に対するツンっていうのは、素っ気無い態度の中にも相手への愛情が見え隠れしないといけないんですよ」
「ほえ?」
「つまり、好きなんだけど素直に好きと言えないというか…」
「え、好きなの嫌いなの?素っ気無いけど好きって?なに、なに?わかんなーい!」
 織姫は頭を抱える。
「うーむ、単純な姫さんには、ちょっと難しい概念かもしれませんね」
「むずかしいよー。嫌ってるように振舞ってるけど好きってことを伝える?そんなのムリでしょ!?」
「確かに、そう言われると複雑ですな」
「はうー。純一くんが最後の頼りなのにー」
「あきらめるしかないですな。それと、東さんにはちゃんと事情を話して仲直りせんといかんですよ」
「はーい…」



 気がつけば放課後。
 あっさり仲直りした織姫とみかは、ひよこにえさをやりに飼育小屋に来ていた。
「明日のテストどうしよう…」
「家へ帰って練習するしかないね。がんばろう」
「うん…」
 おざなりにえさをひよこに投げつけていた織姫の手を、ひよこが怒ってつついた。
「痛いっ!…もう!何するのよ!」
「織姫ちゃんってば、乱暴にするからよ」
 みかが織姫に代わってやさしくえさを差し出すと、ひよこは喜んで(?)寄ってくる。
「ひよこさんはいっつも怒ってるように見えるけど、ホントはすごく人に懐きやすいの」
「そうだったんだ」
「動物が吼えたり威嚇したりするのは、人間を怖がっているの。だからこうして自分に敵意がないことを示して優しくしてあげれば、ほらね」
「なるほどねー」

 ピキーン!!
 と、ここで織姫は何かに閃く。

「そうか。わかったわ!」
「どうしたの?」
「フフフ…、これで明日のテストはバッチリよ!!見てらっしゃい!」



 お待ちかねのテスト当日。
「次―、楓遥」
「べ、別にあなたのことなんて、好きでもなんでもないんだからねっ!」
「よし、いいぞ。合格」

「やったね、はるちゃん!」
「なんだか…すごく恥ずかしいわ…」

 I組メンバーは思ったよりずっと簡単に、テストをクリアしていく。
 あの夏樹も、(50音順なので)トップバッターだったが楽勝で合格を取っていた。

「さてと、見事合格したオレ様は、高みの見物といこうじゃないか。織姫よ、お前がテストで落ちる姿をきっちり目に焼き付けておいてやるぞ」
「ふん、そんなこと言ってられるのも今のうちよ」
「なに、なんだその自信満々な態度は?」
「ウフフ…わたしはすでにツンデレの奥義を極めているのよ!」
「くっ、じゃあ見せてもらおうじゃないか」


「さて次、かなり不安だが…織姫くん」
「はいっ!!」
「今度は、だいじょうぶだろうね…?」
「もちろんです!!」
「じゃあ、どうぞ」
「先生、この教室ではわたしのツンデレを表現するには狭過ぎます!グラウンドに出ましょう!!」

「ざわ…」
 織姫の発言に教室中がざわめく。
「姫、また何かやらかす気かしら」
「おもしろそうね!姫、どんどんやっちゃいなさい!」

 こうしてクラス全員でグラウンドにやってきたI組の面々。
「で、何でオレ様が相手役なんだよ!?」
 グラウンドの中央には、織姫と夏樹が30フィートの距離を置いて向かい合っていた。
 他のクラスメイトは教師も含め巻き添えを恐れて端から見守っている。
「わたしにツンデレはできないと散々言ってきたあなたに、究極のツンデレを見せてあげるわ!」
 ものすごい自信たっぷりに織姫が言った。
「究極のツンデレだと!?」


「いくわよ…」
 ゴゴゴゴ…と大地を震わせて織姫のパワーが急上昇。
「七夕忍法・分身の術!!」
 織姫の身体が2体、4体、8体と分裂を続ける。
「ただの分身じゃない…質量保存の法則を無視した実体のある分身ね。さすが姫」
「姫も、普段の授業や部活もあれくらい真面目に受ければいいのに」

 1024体まで増えた織姫は、グラウンドの半分を埋め尽くそうかという大軍勢である。
「さあ、いくわよ夏樹!」
 エコーかかりまくりの声で織姫達が叫ぶ。
「えっ…ちょ、お前、何を…?」
 ズドドド…とものすごい地響きを立てて、大軍勢が夏樹に押し寄せる。
 織姫たちは皆真っ赤に輝く目で、殺す気満々である。


「ぎゃ…」
 叫ぶ間もなく、夏樹は織姫の大群に呑み込まれた。あれではまず生きてはいまい。


「あれを見て!夏樹が!?」
 麗が指した先には、宙に浮かぶ夏樹の姿があった。
「あれ、俺生きてる?」
 よく見てると浮いているのではなく、織姫のポニーテールが絡みついて夏樹の身体を持ち上げているのだ。

「ラン♪ランララランランラン♪」
 という子どもの歌声する聞こえてきそうな光景である。
「奇跡だ…」

「わかった、王蟲だ!!」
 純一の勘が冴え渡る。
「王蟲?」
「手のつけようがない恐ろしい生き物だけど、美少女にだけは優しいっていうエロい虫ですよ!」
 みかも織姫の意図に気がついた模様。
「織姫ちゃんは強力な破壊衝動を持ちながら美少女好きという王蟲の特性にツンデレを見出したんだね!」

「最強の生物が見せる最強のツンデレ、これがわたしのツンデレに対する答えよ!」
 いつの間にか元の1体に戻った織姫が教師のもとにやってくる。
「どう、先生?」
「…いや、ちっとも萌えないから、0点だな」
「えええーっ!!」

「どんまい!」
「どんまい」
「どん」
「どんまいける」
「どんまい」
「まいまい」
「どんまい」
「どんまーい」
「どんまい」
 クラスメイトたちが以下略。だからそれはもういいって。

「残念だったね、姫」
 落ち込んでるのかと思って麗が励ましてみると、織姫は肩を震わせて…笑った。
「ウフフ…フヒヒ…」
「姫がまた壊れた」

「わたしの萌えキャラの星を目指す旅は、まだ始まったばかりよ!」
「うは、懲りてねえ!」
「わたしはこれからも、ずっと萌えキャラの星を追い続けるわ!!」

「…そろそろ教室に戻らないと」
 困った表情のまま、楓副委員長はそろりとその場を離れる。
「あ、そうそう授業だった」
「僕も部活が…」
 そうやってクラスメイトは続々と退散していった。

「さあ、わたしたちの本当の戦いはこれからよ!!」
 織姫の戦いは、これからも続く…らしい。
「だって、私たちはこの長い萌坂を登り始めたばかりだもんね!」


 未完


 織姫先生の次回作にご期待ください。
「って、この前とおなじこと言ってねえか!?」