デュエルスター☆ユウキ


 命がけのデュエルに、今日も戦うものがいる
 ひそかに眠る危険な力を手に入れるために
 あらゆる困難を乗り越え戦う、デュエルスターたち


 ドロー!ドロー!ドロー! 進めデュエルスター
 ライブラリーの果てまで 目指せデュエルスター
 ドロー!ドロー!レディ・ドロー

 デッキのど真ん中 心のカードが
 目覚める夢の 手札を教える
 きっと出会うだろう 唯一つだけの
 カードが 誰にも眠っているんだ 

 アンタップ 熱き命 アップキープ 早き血潮
 生まれたデッキは 奇跡の子ども 無限の夢を追いかけていこう

 ドロー!ドロー!ドロー! 進めデュエルスター
 山を 島を 森を 平地を越えて
 引かない 捨てない マナない 燃えろデュエルスター
 デッキの底まで 進めデュエルスター
 ドロー!ドロー!レディ・ドロー



 第10話 「嵐を呼 ぶモーレツ!クラシック帝国の逆襲」


 マジック・ザ・ギャザリングの発売から10年が過ぎた。
 そんなわけで今年は10周年記念のイベントが世界各地で開かれていた。

 ここ日本では、愛・地球博の会場と遠く離れた都内某所では
 愛・マジック博が開催されて、連日、多くの人で賑わっていた。

「うわあ、これが幻とも言われるマジックのプレミアカード、パワーナインだね」
 新城ユウキは、ショーケース内の古びたカードをキラキラした目で見つめて言った。
 パワーナインとは、マジックの初版にて発売され、
 そのあまりの強さに2版以降では姿を消したという9種類のカードである。
 ちなみに、それらのカードの効果はというといたって地味で
 ゲームに詳しい人でもないとその強さが理解できないのでここでは説明を省くことにする。

「わたくしは、それよりももっと強いカードを知っておりますわ」
 ユウキの傍らにいる金髪天使セーラが囁く。
 いつもは影の中にいる彼女だが、今日は常に実体化し、
 ユウキのそばにべったりくっついている。
「そんなカードがあるの?」
「それはわたくしですわ。わたくしとユウキさまの絆の力は、どんなカードにも負けません」
 始末に終えない。
「セーラ…」
「ユウキさま…ん…」
 セーラは目を閉じて、唇を突き出してみせた。
「……………………」
 だが、しばらくたっても何の反応もない。
 おそるおそる目を開けると、そこにはユウキの姿はなかった。
「あっちに縄文時代のカードがあるって。行こう!」
「ううう〜」
「何してるんだよ!早く〜」
「もう〜、今いきますよ〜」
 まあそんな感じです。



「このマジックせんべい、おいしいね」
「そうでしょうか、わたくし、自分で自分を食べているような、複雑な気分です…」
 おかしをパリパリ食べながら通路を歩く二人は、前方に見知った人影を見つける。
(あれは…?)
 ユウキはその人物を追って走り出す
「どうしました?」
「そこで待ってて!」
「え、そんな!」

(あの人は、確か…)
 ユウキは、老人との出会いを思い出していた。
 路地裏にある謎のカードショップGOKURAKUの店長。
 ユウキにスターデッキを与えたのはこの老人だった。
 その後も、デュエルスターとの戦いの中でユウキが悩んだり苦しんだりしているときに、
 何度か現れては助言やカードを授けている。
 ユウキにとっては師匠みたいなもんだ。
 この老人はいったい何者なのか。

「まってください、師匠!!」
 老人を追いかけるうち、いつの間にか会場のパビリオンの裏手に回りこんでいた。
 このあたりは人の通行もなく、捨てられたごみなどがそのままになっている。
 そしてついに道は行き止まりとなり、老人は振り向いた。
「見るがよい。これがマジックの10年間が生み出したものの真の姿だ」
「これは…」
 行き止まりに見えたもの、それはゴミの山だった。
 いや、ただのゴミではない。すべて、マジックのカードなのだ。

「これらはみんな、スタンダードのレギュレーションから外れたせいで
 ゴミとなって捨てられたカードじゃよ」
 おおざっぱに説明すると、マジックの公式大会には、
 発売してから2年以内のカードを使用するというルールがある。
 それによって使用できるカードの種類が毎年異なるため、
 ゲームが常に新鮮でエキサイティングになるという利点もあるんだが、
 新しいカードを買って欲しいっていう商売としての面も否定できない。

「人間たちはスタンダード落ちすると、それまでどんなに大事にしていたカードでも捨ててしまう。
 その結果がこの有様だ。これで、マジック10周年だなんだと浮かれていられようか」
「それは…」
 当然、ユウキには答えようがない。
「この光景を、目に焼き付けておくがいい」
 それだけ言うと、老人はゴミの山の隙間から漏れる光にまぎれて姿を消した。


「もう〜、心配したんですよぅ!」
 セーラはそれはもうプンプンしてた。
「ごめん…」
「何かあったんですか?」
「うん、ちょっとね…なんか浮かれてる気分じゃないんだ。帰ろうか」
「そうですか、わかりました」
 意外に神妙な感じでセーラはうなずいた。ユウキの表情から何かを感じとったのだろう。



 さて、こちらは愛・マジック博をたっぷりエンジョイし、意気揚々と家に帰ってきた25歳男性(職業・ニート)のAさんのお宅。
「いやあ、楽しかったなあ」(独り言)
「そうだ、せっかくだから押入れにしまっておいた古いカード出してみようか」(独り言)
「よっし、久々に古いカードでデッキ作っちゃうぞー」(独り言)

 こちらは40歳男性(独身、職業・ニート/魔法使い)
「まんぞくまんぞく」(独り言)
「なつかしいなあ。そういえば俺このカードよく使ってたなぁ。昔はよかった」(独り言)
「あの頃はまだ希望があったのに」(独り言)

 愛・マジック博から帰った人々の間に、何かが起こっていた。


 次の日、ユウキはいつものように「コールドハウス」へ行った。
 いつもたくさんの客でにぎわってるこの店だが、
 今日はそれ以上でマジック全盛期を思い出させるかのような盛況ぶりだ。
「おやっさん、コレどうなってんの?」
「愛・マジック博の影響だな。引退した昔のプレイヤーたちがなつかしくなって戻ってきたんだよ」
「これでお店の売り上げもアップだね、よかったじゃん」
「そうでもないよ。みんな自分たちが持っている古いカードを家から持ってきてるだけで、
 新しいカードを買ってくれないんだよ。これじゃ商売あがったりさ」
「なんだって!?」

「ほら見ろよ。コスト1マナで3点ダメージだ」
「うわ〜、昔のカードって強いね〜」
「こっちなんか1マナでカード3枚ひけるんだぜ」
「うは、まじかよ?」
 いつもはこのような場所にいるはずのない髪の薄くなりかけたおじさんたちが、
 子どもたちに古いカードを自慢している。
 これを見てしまうと、確かに今のカードなんてしょぼく感じてしまうに違いない。


「このままじゃ、カードが売れなくなって発売元のゲーム会社が倒産してしまう。
 そうなったら、二度と新しいエクスパンションが買えなくなってしまう!」

「ユウキさま。これは、マジック・ザ・ギャザリング史上最大のピンチですわ」
 ユウキとセーラは顔を見合わせた。
「昔のカードに熱中している人たちに共通していること、
 それは、愛・マジック博に出かけているということくらいか。
 おそらくそこに何かがあるに違いない」
 おやっさんの名推理。
「もう一度、会場に行ってみましょう」
「ユウキくん、俺もいっしょにいこう。今日はもう商売あがったりだしな」



 会場の入り口には、カードショップ「GOKURAKU」の店長である老人がいた。
「そろそろ君が来る頃だと思っていた」
「おじさん!いえ師匠!!」
「わしはここに、マジックの理想郷を作るつもりだ。
 カードが捨てられるようなことがない、平和で穏やかな世界を」
 老人はふところから、暗黒の輝きをはなつデッキを取り出した。
「スターデッキ!?ってことはデュエルスター?」
「そうじゃ。このスターデッキの力で、人々の心に働きかけたのだ。
 古きよき時代へ帰るようにと」
「そんな…」
 ユウキは絶句した。っていうかスターデッキはどれだけの力を持ってるのだろうか。
「わしがすべてのデュエルスターの頂点に立ったとき、
 世界は真のマジックの理想郷に生まれ変わる。
 新しいカードの発売はなく、いままでの古いカードだけで永遠に遊び続ける。
 これこそ真の平和なマジックの世界だ」
「間違ってる!そんなの絶対に間違ってる!!」

「ならば、デュエルでそれを証明して見せるがいい!
 このワシ、デュエルスター・アジアに!!」


「そうか、思い出したぞ!」
 と、おやっさん。
「4年前の東京で開かれたアジアカップで優勝を果たし、
 アジアの頂点にたったデュエリストがいた。

 その人物についた名 前こそ、デュエルマスター・アジアこと東京不敗!!

 しかし、彼はその後消息をたち、二度と公式戦に姿を現してはいなかったが…」

「ワシを知っている者がまだおったとはな」
「師匠!それほどの実力がありながら、どうしてこんなことを!?」

「わからんのか!」
 東京不敗・デュエルスター・アジアは吼えた。
「4年前、ワシは戦って、戦って、戦い抜き、アジアの頂点にたった。
 だがそのとき、ワシの背後には、長いマジックの歴史のなかで捨てられたカードの山だった。
 その光景を見たとき、ワシは誓ったのじゃ。
 この地球上から人類を排除し、マジックの理想郷を作ると!!」
 彼の叫びに答えて、大地が震えた。地面が裂け、一本の塔が姿を現す。

「これがワシのデッキじゃ」
 塔のように見えたそれは、カードが幾重にも積み重なって出来た超巨大なデッキであった。
「で、でかい!!」
「このデッキは、人々によって捨てられたカードによって作られている。
 使われずに捨てられたカードたちの怨念がこもっておるぞ。
 デュエルスター・ユウキよ、果たして貴様にこいつを倒すことができるかな?」
 圧倒的なタワーデッキの迫力に、ユウキはたじろいでいる。
 でも、ここで戦わなければ、世界が滅びてしまう。
「ユウキさま…」
「やろう。絶対に勝って、師匠を止めるんだ。いっしょに戦ってくれるね、セーラ」

「デュエルスター・ファイトォォ!」
「レディー・ドロー!!」

「タワーデッキは序盤の不安定さが弱点だ、一気にせめてやる!」
 ユウキの先制攻撃で、サバンナ・ライオン、白騎士といった軽量級クリーチャーが場に並ぶ。
「甘いわ、<夜の戦慄>で、白のクリーチャーは−1/−1の修正じゃ」
「サバンナ・ライオンは死んでも、それでもまだ白騎士が残ってる!」
「ならば、二枚目の<夜の戦慄>じゃ」
「な、なんだって!」

「おかしいぜ、いくらなんでもそんなに都合よくカードを引けるはずがない。
 それに<夜の戦慄>は白のクリーチャーにしか効果のないカード。
 普通、相手のデッキの中身がわからない場合はデッキに入らないカードだ!」
 おやっさんが横から口を出した。都合のいい解説員だ。

「この巨大なデッキは捨てられたカードの山といったはず、
 つまりこれまでのマジックの歴史そのものなのじゃ。
 だから、どのようなカードも入っておる」
 なるほど、<夜の戦慄>が入っているのも頷ける。
 しかし、そんなにたくさんのデッキから、運よく同じカードを二枚も引いてこれるのだろうか。
「捨てられたカードには怨念がこもっておる。
 みな、使って欲しくてうずうずしているのじゃ。
 だからその場の状況に応じて、一番使ってほしがっているカードが
 自らの意思でワシの手元にやってくるのじゃよ」

 なんと、おそるべき捨てられたカードの怨念の力。
 おそらくはスターデッキの力による影響もあるのだろう。

「莫大なカードの中から、最も有利なカードが自発的に手札に来るデッキ!最強すぎる!
 っていうかそんなのもうプレイヤー関係なしに無敵じゃないか!」
「いや、そんな単純なことではありません」
 おやっさんの隣にはセーラがいた。
 まだユウキに召喚してもらってないのでデュエルには参加せずまだここにいるようだ。
「あれだけ膨大なカードを有したスターデッキを操る以上、
 デュエルスター本人にかかる負担も相当なものでしょう。
 常人ならば、すでに精神崩壊しています。
 あるいは、スターデッキに取り込まれデュエルモンスターと化してしまうかも」

「師匠、そのデッキは危険すぎます!今すぐ戦いをやめてください!」
「愚か者!!」
「ぐわあぁっ!!」
 デュエルスター・アジアからの<生命吸収>が、ユウキから直接ライフを奪っていく。
「貴様も滅びるのだ。
 死んで、植物の栄養となり、やがてその植物から紙が作られ、カードとなる!
 人間は植物の肥やしになってしまえばいいのだ!!」

「師匠、あなたは間違ってる!」
「何だと!?」
「確かに人間は、古くなったカードやいらないカードを捨てたりする愚かな生き物かも知れない。
 だけど、人間もまたマジック・ザ・ギャザリングの一部!!
 ゲームを遊ぶ人間とともにあってこそのカードゲーム。
 遊ぶ人間のいないカードゲームの理想郷など、愚の骨頂!!」
「ほざけ、ならばそのカードで、ワシを倒してみせよ!!」

「行くよ、セーラ!!」
「はいっ、ユウキさま」

「ディヴァインミューテーション・ビルド・アップ!!」
 セーラが呼び出され、さらに純白の輝きと共にパワーアップする。
 しかし、<夜の戦慄>の影響もあり、普段よりほんのわずかに強くなっただけだ。

「その程度の天使一匹に何ができる!?」
 東京不敗・デュエルスター・アジアは鼻で笑った。
「クリーチャー1体を除去できる呪文カードなぞ、このデッキには腐るほど入っておるわ!
<恐怖>でも<闇への追放>でもよ、さあワシの手元に来るがいい!ドロー!」
 余裕たっぷりでカードを引いたデュエルスター・アジアだったが、
 そのカードを見て目を見開いた。
「<十字軍>だと…!?白のクリーチャーに+1/+1の修正を与えては、
 かえって相手に有利ではないか!」
 東京不敗の場には白のクリーチャーなど一体もいない。これはどうしたことなのか。
「ならば、もう一度カードを引くまでだ。
 <強欲>で、ライフを払ってカードを引くぞ」
 1ライフ、2ライフ、3ライフと払ってカードを引いていくが、
 どれもセーラに対抗できるカードでないどころか、
 逆にセーラを補助するような能力のカードばかりが手元に集まっていく。

「貴様ら、ワシを裏切るというのか!?」
 暗黒のスターデッキの中、怨念の凝り固まったカードの山は不気味に沈黙を続ける。
「お前たちは、あの<セラの天使>を、
 あの、持ち主に愛されたカードを倒すことはできんというのか…!」

「<ハルマゲドン>で、すべての土地を破壊する!!」
 ユウキのファイナルコンボが決まる。
「よしっ、これでユウキの勝ちは決まりだ!!」

「なぜだ、貴様もあのカードのゴミの山を見ただろう。
 あれを見て何もおもわなんだのか!?
 持ち主に捨てられていくカードたちに、哀れみを感じなかったのか!
 お前はそれでも、新しいカードが発売され続けている現状の方が正しいというのか!!」
 デュエルスター・アジアは問うた。
 ユウキだけにではなく、神―いるとしたら、マジックの神そのもの―へ問いかけているようだった。

 ユウキは、ゆっくりと顔を上げた。

「それでもぼくは、新しいカードが出て欲しいんだ!
 色んな戦術のデッキで、色んな人と戦ってみたいんだ!」


「そうか…」
 デュエルスター・アジアはがっくりと手をおろした。
 手札が地面に散らばって、塔のように積みあがっていたデッキも崩れていく。
「ワシの負けだ。デュエルスター・ユウキよ、お前にマジックの未来を託すぞ」
 東京不敗の持っていた暗黒のスターデッキもまた、砂のように崩れ去った。
「これで、もう安心…ごほっ、ごほっ!!」
「師匠!!」

「まさかあのじいさん、不治の病でマジックの現役から引退してたのか!」
 おやっさんの指摘通りだろう。

「新城ユウキ、お前には教えられたよ。
 人間もまたカードゲームの一部、
 ともに遊ぶ人間なくしてカードゲームの理想郷などなし得ないとな…」
「師匠!しっかりしてください!」
「あのカードの山が、今までは怨念うずまくゴミの山としか見えなかったはずなのに、
 こうしてみるとなんと美しい…」
 朝日に照らされたカードの山は、光を反射して宝の山のように輝いている。
「師匠!?、ししょおおおおおおお〜!!」


 こうして、人類を滅亡に導こうとした東京不敗・デュエルスター・アジアはこの世を去った。
 ユウキは改めて誓った。
 デュエルスターの戦いを終わらせ、真に平和なマジック・ザ・ギャザリングの世界を作るということを。





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