デュエルスター☆ユウキ


 マジック・ザ・ギャザリングといえばトレーディングカードゲームの元祖にして王者であるが、決してその地位は安泰ではない。日本はゲーム大国であり、外 国のゲームが簡単に市場を支配できるほど甘くはないのだ。

 とあるゲームショップのホビーショップにて。
「さあみんなよっといで、君たちにタダでカードゲームをプレゼントするぞ〜」
 スーツ姿のオタク兄ちゃんが、子どもたちにブースターパック(カードが10枚くらい入った袋)を一つずつ配っていく。

「うわあ、かわいい女の子がいっぱいだぁ!」
 パックを開けた少年が、喜びの声をあげる。

「こっちは金髪ツインテールだ!」
「ボクのは巫女さんだ!」
「すげえ、超レアのツンデレメガネ委員長だぜ!」

「どうだい?君たちも、こんなかわいいイラストが描いてあるカードを使って遊んでみたくないか?」
「うん!やるやる!!」
 少年達はもちまえの熱心さで、オタク兄ちゃんの説明を受け始める。それまで遊んでいたマジックのカードは、無惨にもゴミ箱へ捨てられた。
(よしよし、これでまた我が社のカードゲームのユーザーが増えたぞ)
 なんと!このオタク野郎は営業の人だったのか!!恐るべし!



 マジック それは神秘の力
 マジック それは未知なるゲーム
 マジック そしてそれは、デュエルスターの証!

 アンタップ!デュエル!デュエル!デュエルスター!
 信じて ドローカード!
 アンタップ!アップキープ! カードをこの手に旅立て!

 君が引きたいカードは何? 大蜘蛛 旋風 魂の絆
 タップするとき 手が動く この土地にわきたつマナ

 グリーン・フォレスト ブラック・スワンプ
 ブルー・アイランド ホワイト・プレイン
 レッド・マウンテン 決闘のはじまりさ

 アンタップ!デュエル!デュエル!デュエルスター!
 限界グレイブヤード!
 勇気という名のカードを持ってる
 アンタップ!デュエル!デュエル!デュエルスター!
 夢見て ドローカード!
 アンタップ!アップキープ! デッキをこの手に

 デュエルやりたい デュエルスター 旅立て!



 この物語はフィクションです。

 これまでのあらすじ
 13人のデュエルスターのうち、これまでに倒したのは
 デュエルスター・シザース
 デュエルスター・モモ
 デュエルスター・シャーク
 の3人だけ。ユウキとサキ(ナイト)を含め、残りは10人。

 さて、今回ユウキと戦うことになるデュエルスターは…


第8話 カリフラワー社の刺客! 打ち破れ!魔の女子十二妹房


 新城ユウキはいつものようにデュエルスペース「コールドハウス」を訪れていた。
「おやっさん、最近は色んなトレーディングカードゲームが流行ってるみたいだね」
「そうだねえ、おじさんも今はカリフラワーの『DGキャラカードゲーム』にハマッていてねえ」
 ネコ耳メイドのカードをニヤニヤ眺めながら答えるおやっさんは、もはや変態である。

「ユウキさま、マジックを遊んでいらっしゃる方がおりませんわ」
 彼の背後からもわもわっとセーラが具現化する。
「どうなっているのかしら?」

「それは、我が社の『DGキャラカードゲーム』がマジック・ザ・ギャザリングより楽しいからでしょうね」
 口を挟んできたのは、冒頭でも出てきたあのオタク風サラリーマンである。
「あ、これは失礼。ワタクシ、カリフラワーの若松と申します。お受け取りください」
「名刺なんてもらうの初めてだ…って!これトレーディングカードになってるよ!!『たそがれの若松』って!!これ何種類あるんだよ!!」
「えー、全部で160種類で、うち初回限定特典が1種、店頭プロモ用が1種です。あと、来月には第3弾が出る予定ですね」
「なんつー会社だよ!!」
 そんなお茶目な会社に見えて、カリフラワーは相当なやり手である。秋葉原に巨大ビルを持ち、ゲーム・アニメ・マンガなどのあらゆるオタクジャンルを支配 しようとしている中小企業なのだ。当然、ゲーム界末端のトレーディングカードゲーム界をも乗っ取ろうと考えているのだろう。

「我がカリフラワーは、日本人の習慣・趣味・嗜好あらゆるものを分析し、最も日本人の好むトレーディングカードゲームを作り上げました。それがこの『DG キャラカードゲーム』です。トレーディングカードゲーム界は、いずれDGカ(略称)一色で統一されるでしょう」
 若松は自信満々で不敵な笑みを浮かべている。オタクっぽくてキモかった。
「確かに、かわいい女の子が大好きという日本人の趣味を知り尽くしたカリフラワーならではの戦略だ。これだけカワイイ絵だと、いくらでも集めたくな るっ!」
 おやっさんはカードに見入ったまま解説してる。コイツはもうダメだ。
「マジック・ザ・ギャザリングに最も不足しているもの、それは『萌え』です。『萌え』のないカードイラストなど、ゴミも同然です!!」

「マジックにだって、萌えはあるっ!!セーラ!」
「はいっ!」
 セーラは純白のつばさを広げ、水谷を威嚇するようにユウキの前に立った。
「これがマジックの最萌!<セラの天使>だ!!」

「今どき金髪の天使属性ですか…ハァ?その程度で萌えを語るとは、愚かな…よろしい、本当の萌えを教えてあげましょう」
 水谷はポケットから、星形マーク入りのデッキを取り出す。
「それは、スターデッキ!?」
「営業としては、他社さんのゲームも知らなければなりませんからね。このデッキは、わたしにマジックを教えてくれた親切な人からもらいました。何やら不思 議な力があるようですね。この力を使えば、カリフラワーが日本の、いや世界のエンタメ業界を支配することができるでしょう」
「なんだって!?そんなことさせるものか!!」
 売り言葉に買い言葉で、さっそくデュエル開始の予感。
「では、萌えデッキ対決といきましょう。どちらのデッキがより萌えるか、デュエルで決着をつけようじゃありませんか」
「ちょ、ちょっと待ってよ!普通のデュエルじゃないの?」
「当たり前じゃないですか。普通にマジックで戦ったら素人のボクが負けるに決まっているでしょう。というか私はマジックの勝ち負けには興味がありません。 肝心なのは、どちらが萌えるか。それだけです」
「う…、そう来たか」
 ユウキは思わずたじろいでしまった。ユウキのデッキで萌えカードといえるのは<セラの天使>一枚しかない。萌え対決ということになれば、多少不安があ る。
「いいでしょう。あなたがこちらのレギュレーションに従ってもらうかわりに、時間をあげましょう。勝負は1週間後、それまでに萌えデッキを完成させておい てくださいな。でも、そのころには日本でマジックを遊んでいる子ども達は一人もいなくなってしまうかもしれませんがね」
 うわっ、なんたる自信のほどだろう。カリフラワー社の若松ケン!!
「よ、よしっ!受けて立ってやる!1週間後、萌えデッキで勝負だ!!」



「…萌えデッキですかぁ?」
 で、次の日のこと。ユウキは、倉田リリス&黒宮サキにさっそく聞いてみた・
「くだらんな、これだから男の考える事は…」
 予想通り、黒宮サキはあからさまに嫌悪感をしめしている。
「まったく、メイドとかネコ耳とか、男という生き物は変態だな!」
「黒宮さん、意外に詳しいね…」
「バ、バカなことを…、わたしがそんなものに興味があるわけがないだろう!」
 すごい必死になって否定しているところを見ると……なんだろう。
「そういえば先週、一緒にDGカード買ったよね!」
「そ、それはリリスが…」
 リリスが追い打ちをかけて、サキはまったくしどろもどろになった。いやあ倉田リリスは意地悪だよな。
「何言ってるのよサキちゃん、<薔薇の姉妹>が当たってすごく喜んでたでしょ?」
「あ、うう…」(真っ赤)
「あー、そういうのが黒宮さんの萌えなんだ…」
「そう、サキちゃんは百合属性なのよ」
「ちがーう!!そんなんじゃない!萌えなんて軽々しい言葉で決めつけるな!女同士の友情は、そんな萌えなんて言葉じゃ言い表せないくらい、神聖で…可憐 で…美しくて…」
「なんか、黒宮さん本気だね…だいじょうぶなの?倉田さん」
「ウフフ、気にしなくても平気よ」
 で、結局はその休み時間は萌え談義で終わってしまい、萌えデッキの構築にはいたらなかったわけでした。


「萌えデッキ、ですか…?」
 デュエル仲間がダメなら、直接カードに聞いてみる。ということで、ユウキはセーラを呼び出した。
「えーと、<ショック>とか<火葬>とか<火炎破>とか<火の玉>なんかがそうだと思いますけど…」
「言うと思った…」
 ユウキ、やっぱり脱力。
「火の方の燃えじゃなくて、草かんむりの萌えだよ」
「と申されましても、萌えってなんなのですか?そう言えば先日、わたくしのことをマジックの最萌えカードとおっしゃっていましたが」
 真面目な顔してセーラは尋ねてきたが、その質問はちょっと難しいだろ。
「えーっと、簡単に言うと、カワイイ女の子のことかな?」
 ざっくり定義したな。でも思いつきにしてはいい説明なんじゃないかと作者も思った。
「そうなのですか?わたくしがカードの中で一番カワイイと…そんな…」
 天にも昇るような(実際にパタパタ浮いてるが)幸せな顔をしてうっとりとするセーラ。
「ユウキさま!わたくしは、幸せでございますっ!!」
 しかし、肝心のユウキはあまり浮かない様子だ。
「ユウキさま?」
「でも、セーラ一人の力じゃ、あいつに勝てないような気がするんだ…」
 ユウキは週刊少年マンガ雑誌をパラパラとめくって、あるページを開く。そこには見開きでかわいい女の子たちが描かれていた。
「これが、マガジンで大人気の『AI先生ひなま!』だよ。パソコンから出てきた魔法使いの管理人が、たくさんの女の子に囲まれてイチャイチャするっていう 話なんだけど…」
 ページをつかむユウキの手が、プルプルと震え始める。
「とにかく女の子が可愛いんだよなあ〜読んでるだけで幸せになるっていうか、もちろんストーリーもすっごくおもしろいんだけどね」
 もう顔がニヤけきってる。
「ユウキさまっ!!しっかりなさってください!」
 セーラが必死で揺さぶって、ユウキを正気に戻した。
「危なかった。もう少しで妄想の中で萌死するところだった…でね、この作者なんだけど」
「若松ケン、デュエルスター・プリンセスですね…」
「そうなんだよ。通称『萌えの重鎮』。この人は単なるカリフラワー社のエージェントじゃない。マンガ・アニメ・ゲームさまざまなオタクジャンルに出没して は、萌えを武器に市場を牛耳ってしまう、おそろしい人なんだ…」
「そんなにすごい人だったんですか?」
「ああ、既にアニメ業界は萌えアニメにほぼ支配されてるし、コミック界もすぐにそうなるだろう。次に狙ってるのはゲーム業界で、その手始めにトレーディン グカードゲームを握ろうとしてるんだ…!」
 ユウキは迷いを振り切るように、マンガ雑誌を放り投げる。
「そんなやつ相手に、どうやって萌え勝負を挑めばいいんだ…!」
「ユウキさまには、わたくしがついております!」
 セーラは励ますように、カードバインダーから他のカードをユウキに見せた。
「白カードには、わたくしのお姉様や妹にあたる天使がたくさんおりますわ!わたしたちが力を合わせれば、例えどんな相手だって…」
「ありがとう。セーラ、でも…」
 まったく自信がないユウキだった。今回ばかりは相手が強すぎるのか!



 それからさらに数日後、ユウキは街を徘徊していた。目はややうつろで、髪はボサボサ、服はヨレヨレという様だった。
「クックック…萌えの勉強をするために秋葉原に行ってきたにょ。メイド喫茶にエロゲー屋、フィギュア屋、コスプレ衣装屋と色々まわったおかげで、ボクも すっかり萌えのエキスパートだにょ」
 というより、すっかりアキバ系になってしまった感じだよ。よく見れば、背中のリュックにはポスターがビームサーベルのように刺さってるし、今どき女の子 のイラスト入りの紙袋までぶら下げて…あり得ない、あり得ないよ!!
「ああ…ユウキさまが、変わり果てたお姿に…」
 影の中ではセーラが泣いている。
「そう言えば、お腹がすいたなあ。ハンバーガーでも食べようかな…」
 キモオタ丸出しのユウキは、ブツブツとつぶやいてハンバーガーショップのドアをくぐった。

「お客様、当店ではキモオタの入店はお断りしております。おとといきやがれ!」

 強烈なキックをくらい。店から追い出された。酷いものである。
「いやあ、白いパンチラ萌えですにょ〜」
 ちっとも懲りてない。こりゃ重傷だな。おいおいこんなんで明日のデュエルだいじょうぶなのか!

「ああもう、日ざしがきついにょ。どこかオタクでも入れる店はないかにょ?」
 いつの間にか季節は夏ですよ。っていうかこの物語の時間の概念はどうなってんだ。
「そういえば、このあたりの路地に、カードショップがあったよな…」
 ユウキのおぼろげな記憶では、デュエルスターの1話か2話かそのあたりで、『GOKURAKU(ゴクラク)』というカードショップでユウキはスターデッ キを手に入れたはずだった。つい最近のことなのに、もう何年も前のことのような気がする。
「あれ?この辺だったんだけど…」
 記憶をたどってやってきた場所には、店のあった形跡すらない。
「ウソだ…確かにここに…」

「残念じゃが、今のお前に店に入る資格はない」
 いつの間にか、ユウキの後ろに老人の姿があった。
「カードショップ『GOKURAKU』の店長!」
「愚か者めが!」
 ユウキはビックリして尻餅をついた。背の低いよぼよぼの爺さんだが、何かこう、人を圧倒するような雰囲気がある。
「ピュアな心を持つものにしか、この店の姿は見えんのじゃ。お前さんの心は醜い欲望にとりつかれておる、そのような者には店に入る資格どころか、マジック をやる資格すらないわい!!」
「そんな…ボクはただ、萌えを勉強していて…!」
「よほど血迷っておるようじゃな。仕方がない、少々荒っぽいが…!!」
 老人は何やらすごいパンチでユウキを吹き飛ばした。飛んだ先は路地裏のゴミ集積所だ。
「ぐへっ!ちょっとひどいよ何するのさ!」
「まだわからんのか、この鏡でお前の姿を見るといい!」
 そう言って老人は手鏡を差し出す。そこに映るのは、ゴミだらけで見るも無惨なユウキの姿であった。
「な、これはいったい…!?」
「お前は萌えとやらを探しているうちに自分を見失っていたのだ。今のお前の姿がどれだけ醜いか、よくわかったか!」
 いや、ゴミ捨て場に蹴りこんだのはお前だろ。
「ボクはいったい、何をしていたんだ…!?」
 何か正気に戻ってる!?


「なるほどのう、萌えの重鎮・若松ケンか…そのようなデュエルスターと戦わねばならんのか…」
 正気を取り戻した途端、見た目もすっかり元通りに戻ったユウキは店内で老人にこれまでのことを相談していた。
「ええ、外国産ゲームである以上、マジックは萌え要素ではどうしても劣ります。だから何とかして、やつに対抗できる萌えを探していたんですが…」
「確かに、萌えは大切かもしれん…、じゃが、マジック・ザ・ギャザリングの本来の目的を忘れてはいかん。マジックはゲームじゃ、ゲームであることを忘れて 萌えに走れば、クソみたいなギャルゲーになるだけじゃ」
「そうでした。ボクは大事なことを忘れてましたね」
 老人はやさしく頷くと、懐から一枚のカードを手渡した。
「これはわしからのプレゼントじゃ。このカードに萌えはどこにもないが、マジックに必要なのは萌えではない。そのことを、奴めに知らしめてやるがよい」
「これはっ!こんな大事なカード、もらってもいいんですか!?」
「既にエクステンデッド落ちしたカードじゃ、値もだいぶさがっとる」
「ありがとうございます!ボク、きっと勝ちますよ!」
 老人から得た切り札を手に、ユウキは改めて勝利を誓うのだった。


 で、試合当日。
 ユウキは家さぶのデュエルスペースで若松ケンの到着を待っていた。
「遅いな〜」

 ちゃ〜ら♪

「な、なんだこの音楽は!?」

 ちゃ〜ら♪

 陽気な音楽に加え、デュエルスペース内にはコスプレ姿の女性たちが大量になだれこんできた。

「この唄は、まさか!」
「店長、知ってるんですか?」

 女性たちはノリノリでダンスを踊りながら、きれいに道を作る。そして、金キラ衣装の若松ケンはマイクを片手に乗り込んでくる!


 萌え〜 萌え〜 若松ケンサンバ♪
 萌え〜 萌え〜 若松ケンサンバ♪ 萌えっ♪


「間違いない。彼のテーマソング、“若松ケンサンバ”だ!!」
「ああっ、あそこで踊っているのは○江由衣、あっちにいるのは○田朱美、それに向こうは野○藍じゃないか!!」
 店長はバックダンサーの豪華さに腰を抜かした。
「そうか、若松センセイはご自身の作品に出演させたことを恩に着せて、アイドル声優にあんなことやこんなことだけでなく、踊り子までやらせるなんて…!な んてうらやましいんだっ!!」

「じゃあね〜先生、次の作品でもよろしくお願いしますね〜」
 営業スマイルのアイドル声優たちは忙しいのか曲が終わるとさっさとはけてしまった。所詮こんなもんなんだろう。

「逃げずに来たようだね。君がどんな萌えデッキを作ってきたか、わたしも興味があるよ」
「ボクには萌えなんて関係ない!いつものデュエルをするだけさ!」
 ユウキの発言に、若松センセイは呆れたような表情をする。
「せっかく時間を与えたのに何の準備もしていないなんて…愚かな。まあ、いいでしょう。わたしの萌えデッキで、あなたのカラダもココロも萌え殺して差し上 げますよ」
 若松センセイはなめらかな動作でシャッフルを始める。カリフラワー社製のスリーブには、色とりどりの美少女イラストが描かれていてそれだけで華やかであ る。
 それにひきかえ、ユウキのスリーブは透明で、マジックの裏面に地味な印刷がそのまま映っていた。まあしょうがない。
「それでは、萌えデッキデュエルを始めようではありませんか!」
「決闘開始だ!」

 先に動いたのはユウキだった。2ターン目からさっそく<白騎士>を召喚する。
 それを見た若松センセイ、一瞬キョトンとした顔になる。
「このデュエルは、萌えデッキ対決なんですよ。クリーチャーのパワー/タフネスはそのカードの萌え度によって変動します。この白騎士のイラストはまったく 萌えないので、よってパワー0タフネス0とみなし、即座に墓地に送られます!」
「そんな、ボクの<白騎士>が!」
「まさか、そんなルールも分からないでわたしに挑むとは…」
 なんと厳しいルールであろうか!
「さて、わたくしのターンですが、<サマイトの癒し手>を召喚します」
 今度は、若松センセイがイラスト欄に癒し系美少女が描かれたカードを場に出した。
「あっ!そのカードはイラストが違う!?」
「その通りです。まったく萌えないので、わたくしがすべて書き直しておきました」
 公式ルールだと、偽造カードはもちろん禁止なんだがこれは萌えデッキ対決用のルールだしな。
「さて、この<サマイトの癒し手>ですけど、萌え度でいうとパワー2/タフネス4というところでしょうか。いわゆる癒し系をイメージしたイラストでパンチ には欠けるんですが、白衣という普遍的な萌え記号が広範囲な年代の方に受け入れられる懐の深さを持っているかと」
 実際の<サマイトの癒し手>がパワー1/タフネス1という弱さだとすると、若松センセイの萌えパワーがどれほどのものかわかるだろう。しかしこんなイラ ストにさえ客観的に萌え分析ができるところなどさすがに萌えの重鎮と言われるだけのことはある。

「この勝負、圧倒的にユウキの不利だ!」
 おやっさんがうなる。
「萌えワールドでは、カードイラストの可愛さがそのまま強さになる。若松センセイはプロの萌えマンガ家で、本人自らカードイラストを書き下ろしたとした ら、オークションで数十万の値段がするほど強力。それに引き替え、ユウキのデッキ内容はいつもとまったく変わっていない。通常のカードは、萌えデュエルで は何の役にも立たない。これではあまりにも一方的すぎる」

「ならば、<神の怒り>でクリーチャーを除去するだけだ!」
「残念ですが、ユーのカードはちっとも萌えカードじゃないので無効デース!」
 若松センセイの口調がエセ外人に!これじゃ『トゥーン・ワールド』ですよ!絶体絶命ですよ!!


「くっ、今度はこれで反撃だ!」
 ユウキの影から、純白の天使が舞い上がる。
「ユウキさまっ!マジック最萌えカードの名にかけて、必ずあいつを倒します!」
「<セラの天使>ですか。ですがそのアメリカンなイラストに、どれほどの萌えがありますかねえ」
「そ、そう言われると…」
「まあ、パワー2/タフネス3というところでしょうか…」
 若松センセイの評価については、ここで文句をつけるのはやめときましょう。

「では、パワー2/タフネス4の<サマイトの癒し手>で攻撃します」
「だったら、<セラの天使>でブロックするよ」
 今の<セラの天使>はタフネス3なので、パワー2の<サマイトの癒し手>の攻撃を受けても平気である。

「では、わたしは今ここで、このカードにネコ耳を描き加えます。さらにメイド服を着せます」
 若松センセイはおもむろにサインペンを取り出して、せっせかカードに絵を書き足し始めた。
「ま、まさか!」

「萌え界の格言に、こんなものがあります。ネコ耳3割増し、メイド5割増しとね」
 オプションを追加することにより、若松センセイは自身のカードイラストを強化させたということか!
「よって私のカードはパワー3/タフネス5となり、<セラの天使>を上回りました」
「そんな…」
「ユウキさま、お役に立てなくて申し訳ありません…」
 セーラが墓地に消えていく。
「どうしました?それであなたの萌えカードは終わりなのですか?」
 若松センセイは余裕の表情だ。

「では、萌えの真骨頂といきましょう。出でよ、12人の女司祭たちよ!」

 若松センセイは<魂の管理人>、<祝福された語り部>など、クレリックを次々と召喚していく、イラストはもちろん書き下ろしで、ゴスロリだったりチア ガールだったりまあ色々だ。

「これが、マジックにおいて私の考えつく最大の萌えコンボ!!
その名も、女子十二尼房(シスター☆プリーステス、略してシスプリ)」

「どうですか、12人の女司祭に囲まれた気分は?」
 ユウキはかろうじて耐えていたが、もう周囲の観客は萌えすぎて失神状態ですよ。
(ダメだ、勝てない…!萌えの前には、ボクのマジックは無力なのか…!)

「どうした、ユウキ!お前のマジックを愛する気持ちはその程度なのか!」

「だ、誰だ…!」
 ユウキは周りをぐるぐる見渡してみたが、観客はみんな萌え転がっているばかりだ。
「まさか…!」
 ユウキは自分のライブラリーを見た。カードたちの声だ!!

「お前がオレたちをどんなに愛してきたか、それはオレたちが一番よく知っている。あいつのやっていることは、単にイラストを可愛がっているだけだ!!」
「みんな…わかったよ。ボクはあきらめない!」

 そして、都合よく何かを引き当てたらしく力強く頷いた。

(GOKURAKUの師匠、このカード、使わせてもらうよ!)
「平地一枚を生け贄に捧げて、<キイェルドーの前哨地>をセットする!」
「土地カード?いったいそんな風景イラストで、何をするつもりですか?」
 <キイェルドーの前哨地>、タップすると1/1トークンが出るというアライアンスの強力な土地カードである。師匠からもらったカードというのは、どうも コレらしい。

「早速タップして、トークンを場に出す!」
 ユウキは、手元からおはじきを取り出し、場に置く。

「はて、そのおはじきに、どのような萌えがあるというのでしょうか…?」
「わからないのか、ボクとこのスターデッキは一心同体、いわば固い絆で結ばれた兄弟のようなもの。そしてそのカードの効果で生まれたこのトークンもまた、 オレの妹なんだ!」
「何だと…?」
「お前には聞こえないのか、この妹のカワイイ声が。お前には見えないのか、この妹の可憐な姿が!」

 ユウキは瞬く間にトークンを場にそろえ、12体の妹トークンが並んだ。

「お兄ちゃん」
「お兄ちゃま」
「あにぃ」
「おにいたま」
「兄上さま」
「お兄様」
「にいさま」
「兄くん」
「アニキ」
「兄君さま」
「兄チャマ」
「にいや」

「な、なぜだ、私にも見える…。ただのおはじきのはずなのに、妹に見える!」
「若松ケン、あんたが12人の女司祭で攻撃するなら、おれは12人の妹で、それを受け止める!!」

「ファイナルコンボ・萌えマゲドン!!」
 萌えマゲドン。それは強大な萌えパワーによって大地を薙ぎ払う強大な必殺技である。
「ぐあああああっ!!」


「負けた…この私が、萌え勝負で…」
 若松ケンはがっくりとうなだれた…orz
「わたしは、見た目の絵や声優にばかりとらわれていて、本来の萌えを見失っていたようだ。萌えとは、かわいい何かのことではなくて、かわいい何かを愛する 心そのものなんだ。ありがとうユウキくん、君には教えられたよ」
 若松ケンのスターデッキは砂になって消えた。これでデュエルスター・プリンセス脱落である。
「そんな、これからも連載がんばってください。若松センセイ」
「ああ、がんばるよ。そういえば締め切り明日だっけ!ぎゃあ〜〜〜〜〜」

 あわてて帰っていく若松センセイの冴えない後ろ姿に、やっぱこの人もオタクじゃん、とみんなは笑った。久々にデュエルスペースに笑顔が戻った瞬間だっ た。これからもマジックの平和のために新城ユウキの戦いは続く。戦え、デュエルスター・ユウキ!!



 次回予告

 ウィザードブレイン社が再び動き出した!デュエルキラー四天王の登場!!

 一方、新城ユウキは電車でものすごい美女を見かける。
 この出会いが、やがてインターネットを通じで地球全体を巻き込んだ恐ろしい事件の始まりだった。
 アキバブームにとどめを刺せ、デュエルスター!!

 次回 「デュエリスト男」





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