デュエルスター☆ユウキ


 アンタップ・アップキープ・ドロー! デュエルスター!!

 デュエルにいま命をはれ ライフが危ない
 世界でただ一つきりの トレーディングカードゲーム

 奇跡のカードで 作られた レアなレアなレアなデッキを上げろ
 WOW!WOW!WOW!WOW! マイデッキ!
 WOW!WOW!WOW!WOW! マイデュエルスター!
 守れよ 美しい カードの価値を
 WOW!WOW!WOW!WOW! マイデッキ!
 WOW!WOW!WOW!WOW! マイデュエルスター!
 救えよ そのデッキで 大切な人を
 大切な マジックの未来を WOW!WOW!WOW!

 アンタップ・アップキープ・ドロー!
 マジックやりたい デュエルスター!!


 第6話 「サキは泣い た!デュエルスター・シャークの残虐デュエル!!」


 ここは、林の中の一軒家。
 窓の外を見つめてつぶやく少女が一人。
「わたしも、あの鳥のように自由に空を飛べたらいいのに…」

 ピンポーン

「なんだろう?集金の人かなあ」
 彼女が玄関に出ると、そこには優しそうな瞳をした少年がいた。
「倉田さん、こんにちは」
「あなたは…?」
 おどおどと彼女が声をかけると、少年もまた恥ずかしそうに頭をかいて、ポケットから手紙を取り出す。
「クラスメイトの新城ユウキです。先生に頼まれて、プリントを持ってきました」
「あ、ありがとうございます…」
 ここ半年ほど男の子とは口を聞いていなかった彼女は、それだけ言うので精一杯でそのまま黙りこくってしまう。
「じゃ、じゃあね…」
「はい…、さ、さようなら…」
 彼女は少年が去った後の閉じたドアをしばらく見つめていた。


 新城ユウキは、職員室でのことを思い出していた。
「倉田リリスさんは1年生の2学期の終わり頃から、急に学校に来なくなってしまったの…」
 ユウキの担任である女性教師はそう言った。
「でね、同じ班のユウキくんにこのプリントを届けてもらいたいの」
(ユウキくんなら、冷たく閉ざされた彼女の心を開けるかも知れない…)
 先生はユウキの潜在的な“ハーレムアニメの主人公”たる資質を見いだしていた。だからこそユウキに託したわけだがそんなこともちろん本人には分からな い。
「あの子、寂しそうだったなあ…」
 ユウキの心に、帰り際に彼女が見せた悲しげな表情がいつまでも残っていた。


 で、数日が過ぎた。
「それでね、アンコウ先生が怒っちゃってもう大騒ぎ」
「ふふっ、そうなんだ」

 ゲゲーッ!!いつの間にか新城ユウキが倉田リリスと仲良くなってるし!!
 お庭の林で仲良く談笑ですか!?チッこれだからハーレム主人公は油断できねえんだよ!
「何いってんのさ、倉田さんが学校の話が聞きたいっていうからしてるだけだよ!」
 はいはいそーですか。

「ねえ、倉田さんは学校に友達とか、知り合いとかいないの?」
 あーあ、登校拒否児によりにもよってなんでそんなことを聞くかねえ?いないに決まってるじゃん。あーあ泣くよきっと。フラグぶち壊しだね。

 彼女はさんざん悩み抜いた末に打ち明けた。
「一人、すっごく仲のいい子がいたんだけど…」
「けど?」
「わたしがこんな風になっちゃってからは、一度も会いに来てくれないの… きっと、わたしのことなんてもう何とも思ってないんだよね…」
 そこまで言って、彼女は涙をこぼす。
「そ、そんなことないよ!きっと何か事情があるんだよ。よし、ボクが聞いてきてあげる。その子の名前は?」
「…黒宮…サキちゃん…」
「なんだって!」
 これはまた意外な展開だなあ。
「サキちゃんのこと、知ってるの?」
「ま、まあね…」
 黒宮サキはデュエルスターの一人、デュエルスター・ナイトである。マジック・ザ・ギャザリングを憎み、全世界からマジックの消滅を願う彼女の真意は今 もって不明だ。
「わかった。黒宮さんと話してみる」
 ユウキはポケットの中のスターデッキを強く握りしめた。


 リリスの家を出たユウキは、サキを探して街中のデュエルスペースをうろついて3軒目で運良く見つけ出した。
「ちょっと来てよ」
 人通りのない路地に連れて行く。
「こんなところに呼び出して、何の用かしら?ここで決着をつけるつもり?」
「今日はデュエルスターの戦いとはまったく関係のない話だよ」
 ユウキの言葉にサキはいぶかしげな顔をしたが、そのまま立ち去ろうとする。
「わたしは忙しいの、あなたにかまってるヒマなんてないの」
「待ってよ!倉田リリスって子と友達なんだろ!」
 その名前に反応して、サキはユウキの方に向き直った。
「なんで、あなたがあの子の名前を口にするの…?」
「倉田さん本人から聞いたんだ。黒宮さんに会いたがってた」
「そう、リリスは元気そうだった?」
「気になるんだったら、どうして自分で確かめに行かないんだよ!?」
「わたし、行かないって決めたの。リリスが入院した日にね。彼女が元気になる日まで、絶対に会わないって」
「どうして?友達じゃないの?」
「そういうあなたはリリスの何なのよ?」
 聞かれてユウキは慌てる。
「いや、ただのクラスメイトなんだけど…なんというか、同じクラスなんだし、学校に来て欲しいっていうか…」
 ユウキの返答に、サキは冷たい吐息をもらす。
「あの子がどうして不登校になったのか聞いてないのね…」


「あの子はマジック・ザ・ギャザリング恐怖症なのよ!!」


「な、なんだってー!!」
「最初は好きだったのよ。カードゲームが。でも、初めて出かけたマジックの大会でよっぽど嫌な目に遭わされたんでしょうね。病院に担ぎ込まれた時の彼女 は、死んだような目をしてて、げっそりとやせ細って、ほとんど死にかけていた。友達のそんな姿を見たら、会いにいくのがつらいに決まってるじゃない!」
「だから、マジックを憎んでいるのか…」
 サキの解説はまだ続く。
「その時に誓ったの。わたしが仇を討つって。この世からマジック・ザ・ギャザリングとそのプレイヤーをすべて抹殺し、トレーディングカードゲームのない平 和な世界を作ってみせる。そうすれば、リリスはまた学校に戻ってくることが出来る」
「だけど、そのためにマジックのすべてを否定するなんて…」
「あなたにも多少なりとも良心があれば、わたしとリリスが受けた心の苦しみがわかるはずよ!こんな人を不幸にするゲームは、地球上からなくなってしまえば いいのよ!」
 ユウキには、返す言葉が出てこなかった。
「わたしはデュエルスターの争いに勝ち残り、願いを叶える!世界からマジックをなくすというわたしの願いを!そのために新城ユウキ!あなたには死んでもら うわ!」
 黒宮サキの影から黒騎士が現れる。
(ユウキさま、早くわたしを召喚してください!)
 セーラがユウキの心に呼びかける。
「ダメだ…ボクは、ボクは…ぐわあっ!」
 黒騎士の刃がユウキを切り裂く。実害はないものの、精神力へのダメージは相当なものである。

「どうしたの?戦いなさい!新城ユウキ!!」
「嫌だ、そんな話を聞かされちゃったら、ボクは君とは戦えない…」
「甘いわね、じゃあ望み通り殺してあげる!!」
 黒騎士の斧が再び振り下ろされる瞬間、ユウキの影からセーラが出てきて攻撃を受け止めた。
「ユウキ様は、わたくしが守ります!えいっ<目くらまし>!!」
「きゃあっ!」
 サキがひるんだ隙に、セーラは気を失っているユウキを抱え上げ飛んでいく。
「こらっ!逃げるな、待ちなさいっ!!」




 その頃、ユウキのホームグラウンドであるデュエルスペース「コールドハウス」でも事件が起こっていた。

「なあ君初心者だろ、君の持ってる<極楽鳥>を、オレの持ってる<甲鱗のワーム>と交換しないか?」
「うわーすげえ、強さがパワー7/タフネス6もある!」
「そうだろう。<極楽鳥>なんてパワー0/タフネス1だもんな。そんな役に立たないクリーチャーより、こっちの方が使えるよ」
「うんわかった!交換する!」
「そうか、じゃあトレード成立だな」
 男は心の中で大笑いしていた。
(ぎゃははははっ、これだからアホの初心者をだましてレアカードを手に入れるのはやめられないぜ!)

 これが、業界用語で言うところのシャーク(鮫)である。
 カードの希少価値が分からないゲーム初心者を騙して、レアカードを奪い取るという行為でありこういうことをする人は当然みんなから嫌われる。

「おい、お前さあ、シャークやめろよな」
 今どきめずらしく勇気のある若者が注意する。
「なんだお前、オレにケチつけよってのか?あん?」
 男の影から、不気味なモンスターが現れる。なんとこいつもデュエルスターだったのか!

「いい度胸だ、闇のゲームを見せてやる」
「ひええ…!!」
 勇気があるといっても所詮は単なるパンピーな若者。モンスターを見れば腰抜かして逃げるに決まってるわけで。

「鮫島…シャーク…、見つけた…」

 デュエルスペースに入ってきた黒宮サキは、驚きと喜びが入り交じったような顔でシャーク男を見つめた。
「新城ユウキがここに逃げてきたんじゃないかと思ってきてみたんだけど、思わぬ獲物が見つかったわ」
「誰だ、お前?」
「あなたが半年前に病院送りにした倉田リリスの親友よ…仇を討たせてもらうわ…」
「覚えてないなあ?オレが再起不能にしてやったデュエリストなんて星の数ほどいるからな」
「鮫島ジャーク、アンタは絶対に許さない。例えどんなことをしても、絶対に殺してやるわ!」
「ふん、やれるもんならやって見やがれ!!」

「デュエルスター・ナイト!私を夜の闇に包め!!」
「デュエルスター・シャーク!怒涛の鮫!!」

 こうして今日もデュエルスター同士の戦いが始まった。

「ハールーン・ラガー(ミノタウロス)を召喚する」
「そんな貧弱なクリーチャー、わたしの<邪悪なる力>付きの黒騎士の敵じゃないわ!」
「それはどうかなあ?さあ攻撃するぞ!」
「黒騎士、ブロックしなさい!!」
 だがミノタウロスは黒騎士をすり抜け、ミサにダメージを与える。
「きゃあっ!ど、どうして…?」
「こいつの能力は少々特別でな、<デニム渡り>ってんだ」
 カード知識の少ないミサには、何のことやらさっぱりわからない。

<デニム渡り>
対戦相手がデニム生地の服を着ている場合このクリーチャーはブロックされない、っていうふざけた能力。アングルードというカードセット(英語版のみ)に収 録されている。

 彼女の服装はというと、これがまた都合良くジーンズ履いてるんだよなあ。
 そうこうするうちに、ミノタウロスは二度目のダメージをミサに与えている。
「ど、どうすれば…この攻撃を…止められるの…?」

「そんなのは簡単さ、脱げばいいのさ。ジーンズをな!!」

「なっ…!!」
 絶句するミサだった。
「思い出した!」
 遠巻きに客達と試合の様子を見ていた店長が叫んだ。
「“セクハリスト”の鮫島。かつて、相手への精神的な嫌がらせを行って公式大会から追放処分を受けたデュエリストがいると聞いたことがある。そいつは、相 手が女性プレイヤーでジーンズ着用だった場合、必ず<ハールーン・ラガー>のカードを使ってセクハラまがいの行為をしたという…」
「じゃあ、あいつがその…?」
「あの生真面目な嬢ちゃんじゃ、まずいな…」

「オレに勝つためには、どんなことでもするんじゃなかったのか?お嬢さん!」
「くっ…、あなた、それでも人間なの!?正々堂々と勝負しなさいよ!」
 サキが悔しまぎれに吠えた。だけどユウキと戦うときにズルしてたのあんただよね。
「これがオレ様の鮫島流残虐デュエルショーだ。お前のデュエリストのプライドをズタズタにしてやるぜ、けっけっけっ!」

 さらに2体、3体とミノタウロスの数が増えていく。
「ほら、脱げるもんなら脱いでみろよ。お前のデュエルスターとしての覚悟はそんなもんだったのか?」
「くっ…」
 ついに、サキがジーンズのベルトに手をかける。

「ほら、周りのみんなも期待してるぜ、早く脱いじまえよ」
 鮫島にそう言われ、サキは自分の置かれた状況に改めて気づく。
 二人だけで戦っていたわけではない。ここはお店の中であり客だってたくさん見てるのである。
 観客たちに下着姿を見られることの恥ずかしさを想像し、サキは顔を真っ赤にした。

「しょせん、お前はその程度の覚悟しかない甘ちゃんなんだよ。とどめだ!!」
「そ、そんな…わたしがこんな奴に…ぐあっ!!」

 黒宮サキ、ライフ0
「ううう…」
「これだけ痛めつけてやったのに、まだ負けを認めてないみたいだな」
 デュエルスターは自らが完全に敗北を認めない限り、戦いを続けることができる。心が折れた時がデュエルスターの死なのである。
 あれだけ痛めつけたにもかかわらずサキのスターデッキが破壊されずに残っていたことに、鮫島は少なからず驚いているようだった。
「お嬢ちゃん、もうひと勝負だ。お前が完全に壊れるまで痛めつけてやる」
「やめろ!もう勝負はついたはずだ!!」
 いつの間にか現れていたユウキとセーラが鮫島とサキの間に割って入った。
「ちっ、またデュエルスターか。さすがにオレも二人を同時に相手にする気にはなれん。帰らせてもらうぜ」
 鮫島はスターデッキから盛大な水しぶきを上げると、波に乗ってどこかへ消えていった。


「酷いことするなあ。だいじょうぶ?黒宮さん」
 黒宮サキは、放心状態で座り込んでいた。
「わたしが、負けた…あんな奴に…」
「しっかりしなよ。悔しいのはわかるけど、あいつの挑発に乗ってズボンおろすんじゃないかってヒヤヒヤしたよ。でも黒宮さんも女の子なんだなあ。恥ずかし がっちゃって」
 ユウキが手を差し出すと、サキは乱暴にその手を振り払う。
「お前なんかに、わたしの気持ちがわかってたまるもんか!!」
 サキはユウキをつきとばし、店の外へ走り去っていった。
「黒宮さん!」
「今はそっとしておいてやれ」
 おやっさん(店長)がユウキを引き止めた。
「それよりこの店の惨状、なんとか元通りにしてくれよ…頼むから」


 外はおあつらえ向きに雨だった。
 濡れるのもかまわず、泣きながらサキは走る。
(リリスの仇を討てなかった!憎い、あいつが憎い!!)

 キ―――――――――――――――――ン

「この登場音は!?」
 デュエルスターの戦いを影から操る張本人、神崎ドロウだ!
「その強い憎しみの力があれば、こいつを使いこなせるかも知れん」
 神崎は、サキに2枚のカードを投げてよこした。一つは密林、もう一つは恐ろしげな怪物が人間を襲う姿が描かれている。
「使ってやるわ!デュエリストを滅ぼすためなら、どんなことだってしてみせる!!」
 彼女はためらいもなく2枚のカードをスターデッキに突っ込んだ。
(さよならリリス、わたしは鬼になる!人間を捨て、デュエルの鬼になり地球上からマジックを遊ぶ人間を根絶やしにしてやるッ!!)

「―――――――――――――――――ッ」

 彼女の悲鳴を稲妻の音がかき消す。かすかに聞こえたその叫びも、もはやヒトのものではなかった。
 稲光に写る邪悪なシルエットは、凶悪なデュエルモンスターの誕生を表していた。


 次回予告

 デュエルモンスター・ナイトメアと化した黒宮サキが、鮫島ジャークを、そして新城ユウキを襲う。恐るべきエンドレスコンボの罠が、デュエリストたちを次 々に悪夢の世界へ閉じ込めていく。
 果たして、新城ユウキは黒宮サキの暴走をとめることができるのか!

 次回 デュエルスター☆ユウキ 「立てデュエリストの少女!廃人デュエルスターを救え!」
 デュエルの舞台が君を待つ!!


 デュエルスターのコン ボ講座 第6回 「セクハラコンボ」

 デニム渡りと「脱げ」コール。相手になんとかジーンズを履いてきてもらおう。
 



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