デュエルスター☆ユウキ
これまでのあらすじ
マジック・ザ・ギャザリングを販売しているウィザードブレイン社から、スターデッキと呼ばれる強大な力を秘めた13個のデッキが盗まれた。
そのスターデッキの一つをひょんなことから手にした少年デュエリスト・新城ユウキは、スターデッキの使い手=デュエルスターの戦いに巻き込まれる。デュ
エルスター同士の戦いで最後まで勝ち残った者には、どんな願いでもかなえることができるというのだ。
マジック・ザ・ギャザリングを愛し、あくまでゲームを楽しむことを第一に考えるユウキは、相手を倒すためなら手段を選ばない他のデュエルスターたちに戸
惑い、傷つきながらもデュエルスター・シザースを倒し、デュエルスター・ナイトを2度までも退けた。
そんな中、ウィザードブレイン社でも動きがあった。スターデッキを回収するために、恐ろしい刺客ボブ・タップを送ってきたのだ。その腕力は現日本チャン
プを1ターンでノックアウトするほどに、人間離れしたものだった。
果たして、今回のデュエルスターの戦いの行方は…
第5話 ユウキ危う
し!美少女デュエルスターの挑戦!!
公式トーナメント、それはマジックを愛好するデュエリストたちが集い、競い合い、カードを交換し合う、とても重要なイベントである。
新城ユウキが毎日のように遊びに行っているデュエルスペース「コールドハウス」でも月に1度は公式トーナメントが開かれているが、集まるのはいつもの常
連の十数名といったところだ。だが大きなトーナメントとなると公民館やその他巨大な展示場をまるまる借り切るほどの賑わいとなる。
今日、ユウキが訪れたトーナメント会場の規模は中くらいというところ。隣町で急にトーナメントが開かれるといううわさを聞いてとりあえず来てみたという
感じだ。
「ユウキさま。気をつけて下さいね。この広い会場のどこかに他のデュエルスターが来ているかも知れませんわ」
ユウキの隣にいる金髪で羽の生えた少女は、キョロキョロと注意深く当たりを見回している。
「あの、セーラさん。目立つから羽根だけでもしまってください…」
「あっ、すいません…」
翼が一度大きく羽ばたいたかと思った次の瞬間、背中に吸い込まれるようにして羽根が折りたたまれていった。そのままバックパックと同化して見えなくな
る。
「なんだ、レイヤーが来てるのかと思って来てみたら、ユウキじゃないか!」
「あっ!青沼くんか」
青沼と呼ばれた少年は迷彩柄のジャンパーにバンダナというオタクルックがよく似合っている。
「ひさしぶり。この間の名古屋城での戦いでは君に不覚をとったが、今日は負けないよ」
「こっちこそ。通算じゃ青沼くんの方がまだ上なんだからね。今日も勝たせてもらう」
この青沼という少年、ユウキのいいライバルのようである。
「こっちの子は、君の連れなのか?」
「うん、紹介するよ。僕の妹のセーラ」
「新城セーラです。いつも兄がお世話になってます」
セーラはもちろん、ユウキの妹などではない。スターデッキに装填された<セラの天使>というカードから実体化したクリーチャーなのである。だがそれを信
じてくれる人がどれだけいるだろうか。そんなわけで、ユウキは友人たちにはセーラを妹として紹介している。
にしたって、純日本人の兄に金髪の妹ってのも普通はあり得ないわけだが。
「ふーん。可愛い妹なんてうらやましいなあ。ところで、妹さんもトーナメントに参加するのかい?」
「いや、妹は僕の応援に来てくれたんだけで、今日は出る予定はないんだ」
ユウキの言葉に、青沼は一瞬顔をゆがめた。
「君には失望したよ。神聖な男同士の戦いに女を連れてくるなんて」
「青沼くん?」
「最近多いんだよな、大会に彼女を連れてきてるヤツ。こっちが真剣に試合してるときに、目の前でイチャイチャして、ムカツクったらありゃしない」
青沼は非難の目をユウキに向けた。
「僕には君みたいにかわいくてお兄ちゃんにぞっこんの妹なんていないさ。ここに来てるデュエリストのほとんどはそうさ。みんな女にうつつをぬかすような暇
があったら、デュエルの研究と練習に明け暮れている連中さ。そんなネクラなオレたちを相手にきれいな妹さんを自慢できて、君はさぞかし気分がいいだろう
ね」
「僕は、そんなつもりでセーラを連れてきたわけじゃないよ…」
オタクってものはえてして被害妄想が強いもんだ。青沼くんもその例にもれないらしい。ユウキの弁解なんぞ聞く耳もなく延々と語り続ける。
「だいたい女なんてのはね、勝負事やゲームをできるような頭脳がないんだよ。考えていることは化粧と食べ物とカッコイイ男のことばかり。女なんかにマジッ
クの楽しみなんて理解できるもんか」
「ひどい…」セーラが絶句する。
「それは言い過ぎだよ。セーラはちゃんとマジックのことを知ってるし…」
「どうだかね。女の子を連れ歩いていい気になっているような堕落した君じゃ、僕のライバルとは到底認められないな。せいぜい初戦で負けて妹さんに恥ずかし
い姿を見られないようにがんばるんだね。それじゃあ」
そう言って青沼は去っていった。オタの中でもかなりの女性蔑視主義者のようだ。
きっとオタであることを同級生の女子にでもからかわれたんだろう。
「まったく、失礼千万な方ですわ!」
「青沼くんを怒らないでくれよ。そんなに悪いヤツじゃないんだよ」
「ユウキさ…じゃなくてお兄様は本当にお優しいのですね。お兄様のそういうところ、セーラは大好きですわ」
「セーラ…」
二人はお互いに顔を見合わせて恥ずかしそうにうつむいた。
そしてその様子を、まわりの他の大会参加者たちがうざそうな、あるいはうらやましそうなまなざしで眺めているのだった。参加者はほぼ100%男性。確か
に女連れは目立つ。そして腹が立つ(経験談)。
だが、ユウキと青沼とのやりとりを柱の影で密かに聴いていた者がいた。本当は飛び出してあの男を殴ってやりたかったが、彼女(なんと女性!)は唇をかみ
しめて我慢した。
「女なんかにマジックはムリですって?言ってくれるわね…」
彼女の目に残酷な光が宿った。
「これより、ウィザードブレイン社主催によるトーナメントを開始します。まず第1戦目の対戦組み分けですが…」
マジックのトーナメントはスイスドロー方式という対戦形式が一般的に用いられている。
説明は不要かもしれないがいちおう解説すると、1回戦は完全にランダムに対戦相手を抽出し、2回戦では1回戦で勝った人同士、負けた人同士でそれぞれま
たランダムに対戦相手を抽出する。以降、勝ち数の同じ人同士で対戦相手を決定し、最終的に勝ち数の一番多い人が優勝となるわけだ。
この方法だと2回戦以降は実力の近いもの同士が対戦することができ、強い人は強い人同士で、弱い人は弱い人同士で楽しむことができるという利点がある。
で、こんな解説をしているうちに試合はもう始まっていたり。
「オレのターン!山を3つタップ状態にしてゴブリンの戦車を召喚だ!そしてタップ状態にしてプレイヤーにダイレクト・アタック!!」
「くっ」(ユウキ:残りライフポイント14)
「山をセットしてターン終了だ」
「僕のターン!平地を4つタップしてソーサリー<まぶしい光>。このカードは相手側のクリーチャーをすべてタップ状態とする効果がある」
「しまった」
「これで君の防御はガラ開きだ!白騎士全軍で攻撃!プレイヤーにダイレクト・アタック!!」
「ぐあああ!やられた!!」(対戦相手:残りライフポイント0)
これ、遊○王じゃないよね?
ともあれ、ユウキは初戦を無事突破した模様。
「ユウキさま!おめでとうございます!!」
ちなみに対戦中、セーラはずっとユウキの横にいた。対戦相手はもちろんユウキ自身もこれにはちょっと恥ずかしいものがある。
そこに突然会場テーブルがひっくり返るはげしい音がした。
「誰か!救急車を!!」
「君、しっかりしろ!!」
トーナメントの運営スタッフたちの慌ただしい叫びが響く。
事故はちょうど会場のど真ん中で起きており、人が集まっていた。
「何が起こったの?」
「誰かが倒れたんだって」
ユウキがかけよって見れば、倒れているのはさっきの生意気な少年、青沼だった。
青沼は顔面からひどい出血をしており、床一面が血の海のように赤く染まっている。
「青沼くん!」
ユウキの声に青沼は反応し、あえぐように言った。
「…に、気を…つけ…ろ」
かすかにつぶやき、青沼は意識を失った。ちょうどそこに担架が到着し、青沼は運ばれていく。
「青沼くんはだいじょうぶなんですか!」
「出血による一時的な貧血だろう。病院で輸血の準備もしているということだから、だいじょうぶだと思う」
運営スタッフのリーダーはそう語った。
「ねえジャッジさぁん(注・審判のこと)、この勝負はどうなるんですかぁ?」
男だらけの会場に似つかわしくない高い声が割り込んできた。
「そうですね。対戦者試合続行不可能のため、萌島選手の勝ちとします」
「やったぁ!」
少女は無邪気に飛び上がって喜んでいた。飛び跳ねるたびにぴょんぴょんとポニーテールが揺れるのがまたたまらない。いや、揺れているのはそれだけではな
い。
「青沼くんと戦ったのは君なの?」
「そうよ。萌島モモ、流しのデュエリストよ」
モモと名乗った少女は高音でハキハキと答えた。意識してるのか素なのか、かなりのアニメ声である。
(うわっ…かわいい…)
彼女と初対面の男の子の大多数はこれにやられてしまう。ユウキとはいえ例外ではなく、彼女にはっきりと“萌え”を感じていた。そしてさらにユウキの目を
釘付けにしたのは、瞳の大きな童顔の下に見える、それはそれは大きな2つの隆起であった。
(大きい…)
最近のアニメやマンガでそれはデカすぎだろ!っていう乳があるけど、まさにそんなものだった。さすがに乳首が浮き出ているとかそこまでエロくはないけ
ど、これは青少年には目の毒である。
とはいえ、そんなとこジロジロ見ては失礼なのでユウキはすぐに目を離した。
「青沼くん、いったいどうしたの?」
「わたしもよくわかんないんだけど…、顔が真っ赤になったと思ったら急に倒れて…」
うーん、と考え込む姿もどこかマンガっぽいオーバーアクションだが、それがまた萌える。
こんな萌えの体現である美少女が、まさか青沼をぶん殴って流血させるなんてことはないだろう。新城ユウキでなくてもそう思うところだ。
「青沼くん。病気か何かだったのかなあ」
ユウキの推理はこの程度である。
(ユウキさま、ユウキさま…!)
ユウキの背後でそれまで様子をうかがっていたセーラが小声でユウキを呼ぶ。
(彼女の持っているデッキを見てください!)
「何だって、デッキ…あっ!!」
萌島モモのデッキケースには、スターデッキの証である星形の紋章が浮かんでいた。
(デュエルスター、このカワイイ子が…?)
萌島モモ、どうやらただの童顔+巨乳+ポニテ+アニメ声(お好きな声優をイメージしてください)の萌えっ子ではないようである。
1回戦で以上のようなアクシデントがあったものの、大会は続行された。
「<慈悲の天使>のフライングアタックでフィニッシュ!」
「まいりました〜」
新城ユウキ、2回戦も突破である。
「ユウキさま、やっぱりさっきの女性デュエリストですが…」
セーラが小走りにユウキに駆け寄ってきた。萌島モモの様子が気になるからといって対戦の様子を探りに行っていたのだ。
「また何かあったのかい?」
「はい、対戦相手がまた倒れました…しかも、今度は近くの席にいた人たちも一緒に」
「ウヘヘ…、いちご…バンザイ…」
担架で運ばれていく選手たちは、すれ違いざまにそんな言葉を漏らしていく。その表情は天国でも見ているかのような幸福そうなものだった。流血のあまり血
まみれになったもの、果てはお漏らししている者もいた。
「あの子が何かデュエルスターの能力を使ったのか?」
「いいえ、わたくしが見てる限りでは、そんな様子はどこにもありませんでしたわ」
「じゃあ、いったい何が起きたんだ?」
青沼が最後に言い残した言葉が気になる。いったい何に気をつけろといいたかったのだろうか。
その後、ユウキは勝ち進み、萌島モモもまた同様に対戦相手をリタイアさせながら勝ち進んだ。試合は5回戦へと突入。
「萌島さん…!」
「あら、さっきの青沼さんのお友達の…ユウキさん、でしたっけ?」
ユウキの対戦しているその隣のテーブルで、萌島モモが席についていた。
「ユウキさんは、けっこうマジック強いんですね」
デッキをシャッフルしながら、萌島がにこやかに話しかけてくる。その間にも、おおきな胸がぽよんぽよんと不自然なくらい波打っている。
「も、萌島さんこそ…」
さすがに直視できず、ユウキは視線を自分の対戦相手へとそらす。
「それでは5回戦、はじめて下さい!」
ヘッドジャッジの宣言が聞こえ、ゲームが始まった。
「よろしくお願いします」
まずはお互いに簡単な挨拶から。
「お願いしまぁす」
萌島モモの対戦相手が、びくん、と身体を震わせたのをユウキは視界のすみにとらえた。
(何が起こってるんだ…、まさか…!)
ユウキは自分が萌島モモと向かい合って対戦しているところを想像してみた。
「よろしくお願いしまぁす」
モモがお辞儀をした瞬間、カメラは見た!!
その角度なら、対戦相手はモモの胸の谷間をチラリとだが見ることができる!!
(いけない、勝負の最中にこんなこと考えちゃ…!でもわかったぞ、この人の能力が!)
「いっけなぁい。ペン落としちゃったわ」
しゃがんで拾えばいいものを、わざわざ席をたって腰を曲げてみるあざとさ!
目に映るのはもちろんいちご100%ですよ。直視したら死にますよ!
萌島モモの対戦相手の表情が、みるみるうちに真っ赤に染まり、滝のような汗を拭きだしていく。呼吸はどんどん荒くなり、目は血走り、カードを持つ手が震
える。
今までマジック・ザ・ギャザリングを純粋に愛し、女の子といえばアニメの魔法少女くらいしか知らない清純な男子学生には、目の前の萌えの象徴はあまりに
刺激的すぎた。
「じゃあ、先攻後攻を決めましょう。コイン投げるから表か裏か言ってね」
モモがコインを高く投げあげる。狙ったのか偶然なのか、コインはモモの手の甲ではなく、柔らかな谷間に吸い込まれていく。
「やだぁ、コインが挟まっちゃた!」
モモは胸元を広げてコインを取り出そうとするが、そんな深い山奥へ落ちたものがそう簡単に見つかるわけもない。つーか、ブラ見えてるって。周囲の男たち
は、勝負も忘れてモモの姿態に見入っている。
「胸チラキタ―――――――――――――――――ッ」
盛大な鼻血を吹き上げて、男の一人が倒れた。それが引き金となったのか、バタバタと失神している男たち。股間を押さえて会場を大急ぎで走り去る者たちま
で現れる始末。
当然、対戦相手も至高の笑みを浮かべて昇天していた。
「さっきから出場者が次々と倒れていたのは、こういうことだったのか…」
会場の男たちの中でただ一人、ユウキだけが残っていた。
「あら、わたしの攻撃で落ちない男なんて初めて見たわ」
さっきまでの少し間の抜けたようなトロトロした声とは口調が違っていた。
ユウキが悶絶しなかった理由は単純である。
「ユウキさま、見てはいけませんっ!!」
間一髪というところで、セーラが目隠しをしてくれたからだった。
おかげで、一生後悔するくらいの名シーンを見逃すはめになったわけだが。
「ユウキさま、気をつけて!」
「ふうん、少しは女の子に耐性があるっていうわけね」
萌島モモは席から勢いよく立ち上がり、ユウキの方に向き直った。乳がもうあり得ないくらい激しく揺れる。
「あたしはデュエルスター・モモ。スターデッキとわたしの魅力で、世界中のマジックプレイヤーの頂点に立つ!」
「やっぱり、デュエルスターだったのか!」
「あなたもどうやらデュエルスターのようね、戦い合うのがデュエルスターの定め。どうせこの大会の決勝戦はあなたとわたしの一騎打ちのようだし、ここで決
着をつけましょう。ただ、まともにわたしと戦えるかしら?」
「ユウキさまは、あなたのような下品な女性に目移りなどなさいませんわ!」
後ろでセーラが吠えている。
「わかった。デュエルスター同士の争いは不本意だけど、君のようにマジックの大会を荒らしてみんなに迷惑をかけるデュエルスターを、ぼくは許さない!」
「デュエル、スタンバイ!!」
互いのスターデッキが輝き、バトルフィールドを作り出す。
「ぼくからいくぞ!平地をセットしてターン終了!」
「わたしは、森をセットして<シャノーディンのドライアド>を召喚。ターン・エンするわ」
「ならぼくはさらに平地をセット。2マナで<白騎士>を召喚する!」
さて、モモが召喚した<シャノーディンのドライアド>はパワー1タフネス1という、ほとんど最低レベルのクリーチャーである。それに対してユウキの<白
騎士>はパワー2タフネス2と、明らかに上回っている。
「いくわよ!セクシーコンボ!!」
モモはドローした一枚のカードに軽くキスをすると、なめらかな動作で手札のなかにおさめた。
「<シャノーディンのドライアド>で攻撃するわ。ブロックしなければ、プレイヤーに1点のダメージよ」
まあここで考えて欲しい。ドライアドは白騎士よりも弱いので、白騎士にブロックされれば一方的にドライアドが破壊されてしまう。だが、ユウキはなぜかブ
ロックを行わなかった。
「…うん」(ユウキ・残りライフポイント19)
「さらに森をセット、<アルビノ・トロール>を召喚してターン・エンド!」
「えっ!?ぼ、ぼくはいったい…」
モモのターン終了の言葉に、ユウキは驚いたように場を見渡す。
「いつの間にか、ぼくのライフが減っている!」
「何をとぼけているのかしら、いまドライアドで攻撃したじゃない?」
「え、そんなはずが…」
ほんの数十秒前のことのはずなのに、ユウキにはまったく覚えがない。
「確か、萌島さんがセクシーコンボって言って…まさか!!」
「さすがね、セクシーコンボの秘密にもう気がつくなんて」
萌島モモ、いたずらっぽく微笑む。
「セクシーコンボ、それはわたしの美貌が生んだ超瞬間催眠。わたしのセクシーな動作が男性の神経を一時的に麻痺させ、わたしのターンの間だけ心神喪失状態
とする!!」
ユウキはまんまとひっかかったというわけだ。
だから、ドライアドの攻撃にも無抵抗でダメージを受けてしまった。
「そんな卑怯な技を使うなんて、汚いぞ!」
「何を言っているのかしら?あなたが勝手に見とれただけじゃない。それとも、美しい私が罪だとでもいうのかしら?ウフフ…」
いちいち動作が魅惑的である。悩殺なんてものじゃない。本気で死ぬぞ!
「見とれてちゃダメだ!<白騎士>でこっちも反撃するぞ!!」
「あらあら、ちゃんと場をよく見てないとダメじゃない。<アルビノ・トロール>でブロックするわよ」
「あっ、しまった!!」
<アルビノ・トロール>はパワー3タフネス3である。白騎士よりも強い。
「いつの間に召喚していたんだ?攻撃の直前まではどこにも見えなかったのに…」
ユウキはそう言うが、本文中ではちゃんと萌島モモは「さらに森をセット、<アルビノ・トロール>を召喚してターン・エンド!」と言っている。
だが、ユウキには<アルビノ・トロール>が見えなかっただけなのである。
「これがデュエルスター・モモ第2の技、バストコンボ!」
人並みはずれた巨乳の萌島モモだけが使いこなすことができる脅威の大技である。使い方はごく簡単で、席についてほんの少し前屈みになればいいだけであ
る。
すると大きな胸が、テーブル上のカード群を覆い隠してしまうのである。さっきユウキが<アルビノ・トロール>を見落としたのはこの効果によるものだった
のだ。
「今度はうっかり見逃さないよう、ちゃんと場を見ておかないと…うっ!!」
場をしっかり見ようとすればするほど、逆に胸に目が行ってしまう。男ならば、誰だってあの胸に視線を引き寄せられてしまうのである。悲しいかな男の性
よ。
(貧乳好きだったら、こんなことにはならなかったのに…!)
今更そんなことを悔やんでも遅い。
「ウフフ…男なんてみんなケダモノよ。ゲームの最中でも、いっつもエッチなことを考えている。そんな下等な生き物に、マジックを遊ぶ刺客なんてない!!
わたしはマジックの世界からすべての男を排除し、わたしたち女性が自由にのびのびとマジックを楽しむことができる世の中を作ってみせる!!」
この美しい女デュエリストは、こんなにも激しい野望を持っていたのだ。危うし、日本のマジック界!
(ダメだ、手も足も出ない!このままじゃ、負ける…!)
必死の思いでユウキがドローしたカードは<セラの天使>だった。
「あきらめないで!ユウキ様!」
カードからセーラの声が聞こえてきた。
(セーラ…。そうだ、ぼくは…)
美しく気高いセラの天使の姿に、ユウキは過去の思い出をフィードバックしていた。
「ねぇ、本当に転校しちゃうの!?」
「うん…今まで黙ってて、ごめんなさい…」
「そんな…」
「これ、あなたが持ってて」
「えっ、これって君がすごく大事にしてるカードじゃ!?」
「だから、あなたに持ってて欲しいの。いつかまた会えたとき、すぐわかるように」
「…わかった。大事にするよ」
いつの間にか、ユウキは思い出し泣きしていた。
「そうだ、ぼくは大事なことを忘れてた。ぼくは、ぼくは…」
「な、何なの…」
「ぼくには、好きな人がいるッ!!だから、そんなまやかしには惑わされないぞっ!!」
「え、ええっ!?」
突然の告白に萌島モモが狼狽した。自分のことではないにせよ、そんなことを大声で言われたら聞いてる方が恥ずかしくなるというものだ。
「ゆくぞ!これからが本当の勝負だ!<セラの天使>を召喚!!」
カードから純白の光が満ちて、セーラが勇ましい天使の姿へと変身する。
萌島モモにも負けず劣らずの美少女姿であるが、残念ながらモモほどの胸はない。
「ターン・エンド!さあ、今度は君の番だ!」
「急に威勢がよくなったわね、でもその程度でわたしの魅力に勝てるはずがない…。いくわよっ!セクシーコンボ!」
モモはドローしたカードをおもむろに胸の谷間に挟んでみせた。だがどうだろう。ユウキの表情には何の変化もない。純粋にゲームを楽しむ一途な少年の瞳が
キラキラと輝いているばかりである。
(わたしの色気が通用しないっていうの!?)
このようなことは、モモがマジックをプレイし初めて以来、一度だってなかった。いや、たった一人だけ、今のユウキと同じ目をしていた人がいた。
(おじいちゃん…)
モモにマジックを教えてくれた彼女の祖父である。
(わたしはおじいちゃんに、マジック・ザ・ギャザリングのすばらしさ、楽しさを教わった。ゲームを通じて人と人が心を通い合わせ、たくさんの人たちと仲良
くなれる遊びなんだって聞いて、とってもステキだと思った)
祖父との思いではこの辺で割愛しとく。適当に補完してくれ。
(だけど、初めてトーナメントに出場した時、わたしの希望は無惨に打ち砕かれた…!)
「キミ初心者でしょ。だったらボクが手とり足とり教えてあげるよ。いいからいいから遠慮しないでハァハァ」
「ねえカノジョ、かわいいね。オレとあっちのホテルでデュエルしないハァハァ?」
「こ、このカード上げるからさ、ちょ、ちょっとでいいからさ、そ、そのおっぱい触らせてくれないかな。ハァハァ…」
(マジックの世界は、下品でいやらしいな男たちによって堕落し、腐敗しきっていた。わたしは絶望した。わたしの夢見たマジック・ザ・ギャザリングの姿は、
こんなものでいいはずがない!そこへ、あの神崎ドロウが現れたんだ…)
「このスターデッキを使い、君の力で理想のマジックを作り上げるんだ。醜い男たちなど、まさに<根こそぎ>にしてしまえばいい!!」
(わたしは、こんなところで負けるわけにはいかない。デュエルスターの戦いに勝ち残り、マジックを女性だけの健全なゲームにするために!!)
萌島モモの目が鋭く光った。ポニーテールがヘビのように鎌首をもたげ、ユウキを威嚇する。
「わたしは、マジックをプレイするすべての男を排除する!!男なんてみんな屑だ、そんな連中にマジックをプレイする資格なんてない!!」
「萌島モモ!君は男どもが下品でいやらしい生き物だと言った。だけど、そんな男たちをエッチなポーズで挑発したのはどこの誰だ!」
ユウキの言葉に、モモはたじろいだ。
「今日ここに来たデュエリストたちは、マジックを愛する純真な若者たちだ!休みの日にデートする相手なんてもちろんいないし、普段は女の子とまともに会話
することもできないくらい内気だけど、マジックを愛する気持ちは恋人を思う気持ちよりも深い!そのくらい奥手のデュエリストたちを、巨乳やパンチラを使っ
て誘惑するなんて、ぼくには許せない!ゲームの最中にそんな反則をする君の方こそ、マジックを遊ぶ資格なんてない!!」
「うるさい、うるさい!!セクシーコンボ発動よ!!フルパワーのセクシーコンボで、あなたを1ターンどころか永遠に恍惚の彼方へ誘ってあげるわ!!」
「できるものなら、やってみろ!!もうぼくは惑わされないぞ!」
力強く叫ぶユウキの瞳には、勇気と信念と、そしてマジックへの愛情が満ちあふれていた。全裸姿を見せようと服を脱ごうとしたモモだったが、ユウキのその
瞳に釘付けとなってしまった。
(何なの、この、心の奥まで見られているような感じは…)
モモの全身がカーッと熱くなり、頭のなかがぼうっとかすみがかかったようになる。
(これが、真のデュエリストの目なのね。今までわたしが戦ってきたやつらとはまるで違う…。わたしを見る男たちの目は、いつもわたしの胸や太ももばかり追
いかけていて、わたし自身をまっすぐに見てくれた人はいなかった。真剣な目に見つめられているだけなのにこんなにドキドキするなんて…もしかして、これ
が…)
「セーラ、フィニッシュだ!」
「はいっ!!フライングアタックですわ!」(萌島モモ・残りライフポイント0)
「は…っ!!いつの間に!!」
モモが自分の世界から我に返ってみれば、もうすでに負けていた。
(セクシーコンボにかけたつもりが、逆にわたしが新城ユウキの魅力に囚われていた…ということね)
「負けたわ、完全に」
モモが敗北を口にした瞬間、スターデッキが崩れ去った。
「わたしが…間違っていたのね…」
第4のデュエルスター、デュエルスター・モモこと萌島モモ、リタイア。
残るデュエルスターは、あと10人。
「萌島さん、今からだって遅くない。まだやり直せるよ」
ユウキがそう言って手を伸ばしかけた時だった。
「ワオワオワオ!(訳・見つけたぞ!デュエルスター!!)」
会場の扉を乱暴に蹴破って、巨体が飛び込んでくる。
「ワオワオワオ!(訳・オレはボブ・タップ。デュエルスターの暗殺が任務だ!)」
「あのボブ・タップが、なぜこんな場所に?」
ユウキもいちおうボブ・タップのことはテレビとかで見たことがあるらしい。
「ウオオ(訳・行くぞ!!)」
「なんかよくわかんないけど、戦わなければいけないらしい。頼むぞ、セーラ!!」
「気をつけてください。相手から、すさまじいほどのパワーを感じるんです!!」
「デュエル・スタンバイ!レディー・GO!」
先攻はユウキ。連戦のためか、動きには先ほどのキレがない。
「平地をセットして。ターンエンド」
「ワオワオワオ!(訳・それで終わりか、なら死ねえ!)」
ボブ・タップは猛獣のような狂暴な動作でドローする。
「ワオワオワオ!(訳・山セット、<怒り狂うゴブリン>アタック!!)」
前回、日本チャンピオンを一撃で葬り去った。マッスルコンボだ!!
自らの鍛え上げられた肉体に秘められたパワーをクリーチャーに加えるボブ・タップならではの荒技。1ターン目にこれが出てはどうにも防ぎようがない。
「何、ゴブリンが…ぐあっ!!」
驚く暇もなく、ユウキは全身に強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされる。実際、ボブ・タップ本人に全力で殴られたダメージと同じと考えていい。
ワイヤーアクションさながらに、ユウキの肉体は後方へと飛んだ。その先には、鉄骨の固い柱が待っている。あそこに頭をぶつけでもしたら下手すると死んで
しまうかも。
「ユウキ、あぶないッ!!」
モモが叫ぶ!
「うわあっ!」
ユウキは柱に激突した。だが、やわらかいクッションのようなものがユウキの身体を受け止め、ゆっくりと地面に下ろした。
「この柔らかさ…まさか、萌島さん!!」
間一髪ユウキの命を救ったのは、身を挺して飛び出した萌島モモだったのだ!!モモの爆乳がクッションとなり衝撃を吸収したのである。だが、加速のついた
ユウキの身体と柱の間にはさまれたモモは、胸を押さえ倒れ込んでいた。
「だいじょうぶ?しっかりして!!」
「無事だったのね…よかった…」
口から赤い血をのぞかせながら、モモは弱々しく微笑んだ。
「どうして、ぼくを助けたりなんか!」
「あなたが、あなただけが…わたしと対等にマジックを遊んでくれた。初めて、マジックを通じて相手と理解しあうことができたから…、わたし、あなたのこと
が…」
それ以上彼女がしゃべることはなかった。ユウキの腕の中で、モモは意識を失った。
「よくも、萌島さんを…」
ユウキの中で“何か”が弾けた。
「ワオワオワオ!(訳・何とか生き延びたようだな。だが次の一撃で必ずしとめてやるぞ。そこの女のようにな!)」
ボブ・タップは余裕たっぷりに笑った。
「それは…萌島さんのことか――――――――――――――――ッ!!」
ユウキのおだやかな心が激しい怒りによって目覚めた。
ボブ・タップの<怒り狂うゴブリン>が再度突撃を開始する。
ユウキは、両手をつきだして身構えた。
「ワオワオワオ!(訳・オレの突進(ビースト・タックル)を受け止められると思ってるのか!!)」
「<名誉の道行き>、赤の発生源からのダメージをはね返せ!!」
ユウキの呪文がバリアとなり、ボブ・タップは自らの力をそのまま自分に受けることにる!ゴブリンもろとも激しく跳ねとばされ、巨体がバウンドする。
「ワオワオワオ!(訳・オレが、ダウンするだと…うぬぬ…こうなれば!!)」
ボブの身体に変化が生じ、さらなる巨体へと進化する。その姿はもはや化け物である。
「あれは、<訓練されたオーグ>。ボブ・タップはデュエルモンスターだったのか!」
オーグの本性を現したボブ・タップは、その両腕を振り回して会場の机やいすを破壊しつつ、ユウキに迫る。
「頼む、セーラ!!」
「はいっ!」
ユウキの召喚でセーラがオーグの前に立ちはだかったが。いかんせんカード的にもオーグの能力は6/6でセーラは4/4である。物理的には歯が立たない仕
組みだ。
「えいっ、たあっ!」
セーラの剣がオーグを斬りつけてみたが、オーグは傷一つ負わない。セーラが再度剣を振りかぶったところを隙ありとばかりに両手で捕まえてしまう。
「くっ、ああっ…」
握りつぶしてしまうつもりらしい、セーラの悲痛な叫びが冷たく響く。
「セーラ、負けるな!<ディバイン・ミューテーション>だ!!」
「は、はいっ!!」
「ディバイン・ミューテーション・ビルド・アーップ!!」
セーラの身体が光につつまれ、オーグは思わず手を離した。その眼前で、セーラはみるみるパワーアップを遂げていく。背が20センチも伸びて、また成長に
応じて身体全体が豊かなプロポーションを形作っていく。身につけている鎧やアクセサリもちょこちょこと変わっていた。
これがアニメや特撮だったら、バンクシーンの出番だろう。
「ディバインセーラ、変身完了!」
「ウガー!」
律儀に変身終了まで待っていたオーグがさっそく殴りかかる。だがセーラはたやすくその手をつかんで投げ飛ばす。カードの能力的にも7/7だから、ちゃん
とオーグの力を数値的に上回っている。
「あなたのハートに、エンジェル・ビーム!!」
セーラの指先から放たれる光線がオーグの胸に命中し、爆炎を上げる。
「野獣ボブ・タップ、萌島さんの仇だ! ファイナルコンボ!」
ユウキのファイナルコンボがついに発動した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
大地がさけ、地面が飲み込まれていく。すべての土地を破壊する<ハルマゲドン>が効果を発揮したのだ。ボブ・タップは哀れにも地割れに腰まではまってし
まい、身動きができなくなる。
「セーラ、今だ!!」
上空高く飛び上がったセーラが、剣を構えて急降下する。
「エンジェル・フライング・フィニッシュ!!」
ボブ・タップはその直撃をまともに受け、まるでそうなるのが当然であるかのように爆発・四散した。
ウィザードブレインの刺客・野獣ボブタップの最期だった。
大会はというと、とりあえず無かったことになった。審判も倒れて運ばれてしまったからね。
「あなたと戦えてよかった。デュエルスター・ユウキ」
萌島モモも肋骨が折れるとかそんな怪我もなく、しばらくすると目を覚ました。まさか死んだなんて思った人はいないだろうな?
「わたし、あなたと戦ってみてわかった。マジックを楽しむのに男か女かなんて関係ない。大事なのは、相手を思う気持ちなんだって」
まあ、どこでそんな風に結論づけたのか分からんが本人がそう言うんだからそうなんだろう。
「今度、『家さぶ』においでよ、君さえよければまたいつでも対戦相手になるよ」
「ありがとう。またいつか、あなたとデュエルがしたいわ」
「そうだね。その時は正々堂々と戦おう」
こうして、恐るべき巨乳デュエリスト、デュエルスター・モモこと萌島モモは姿を消した。ユウキに背を向けて歩き出す彼女の瞳は、かすかに涙に濡れてい
る。
次回予告
マジックを憎み、この地球上からマジックを消滅させることを願うデュエルスター・ナイトこと黒宮サキ。彼女の真意とは何か?
新たな敵、デュエルスター・シャークの卑劣な罠が、黒宮サキを追いつめる。
ユウキは彼女を救うことができるのだろうか。
デュエルスター☆ユウキ 第6話 「立ち上がれ久良子! デュエリストの少女ハイジ」(仮)
デュエルスターのコン
ボ講座 第5回
「セクシーコンボ」
やれるもんならやってみろ。以上。
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