第4話 デュエリスト抹殺指令!野獣ボブ・タップ東京上陸!!


 OPテーマ「光速!!デュエルスターユウキ」

 カード!カード!カード! カード!カード!カード!
 世界中に1つしかない 自分のデッキはコピーなんかじゃない
 シャッフルしたとき与えられた 手札を今信じて立ち向かおう

 ルールを知らない 悲しいデュエルスター
 正義の勝負で 楽しむ心を思い出させよう

 タ・タ・タップ!
 マナ全開! デュエルスペースの平和を守りたい
 ド・ド・ドロー!
 手札全開! デッキのなかに天使がいる
 輝けデュエルの星 デュエルスター・ユウキ!!



 登場人物の紹介

 新城ユウキ(デュエルスター・ユウキ)
 この物語の主人公。マジック・ザ・ギャザリングが大好きな少年。
 ひょんなことからスターデッキを手にし、デュエルスターの争いに巻き込まれる。

 セーラ
 ユウキの持つスターデッキの力によって実体化した「セラの天使」のカード。
 いつもカードを大切にしてくれるユウキのことが大好き(笑)。

 黒宮サキ(デュエルスター・ナイト)
 素行不良の少女、「黒騎士」のカードを契約クリーチャーとするデュエルスター。
 デュエルスター同士の戦いに勝ち残ることに執着しており、時に非情に徹することも。

 蟹江シザース(デュエルスター・シザース)
 両手の巨大なハサミを武器とするデュエルスター。
 マジックで仲間外れにされた腹いせにデュエルスペース荒らしを繰り返すが、
 ユウキとの戦いでマジックの楽しみを教えられ、更正を果たす。

 おやっさん
 デュエルスペース「コールドハウス」の店長。
 マジックに限らず、ゲームに詳しい。主に解説役。

 その他もろもろ
 今回だけで新キャラが8人くらいでます。バランス悪いなぁ。



 第4話 デュエリスト抹殺指令!野獣ボブ・タップ日本上陸!!



 キ―――――――――――――――――――――――――――――――ン

「なんだ、この耳鳴りは?」
「この音は、オレにスターデッキを渡したやつが来たときの登場音!」

「デュエルスター・シザースは敗れた。これで残りのデュエルスターは12人」
 いつ入ってきたのか、くぐもった低い声をしたコート姿の男がいた。
 男の半身は影の中に隠れていて、まるで幽霊のように見える。
「お前はいったい、何者だ?」
「気をつけてください、ユウキさま!」

「見事な戦いだった。デュエルスター・ユウキ。だがその程度の腕では、
 デュエルスター同士の戦いでは生き残れない」
 男はユウキを褒めているのかけなしているのかわからないことを言う。
「デュエルスター同士を戦わせているのは、あんたなのか?」
「オレはただ資質のある者にスターデッキを託しただけだ。
 戦いを望んだのはそいつ自身の意思だ。お前はどうなんだ?」
「ボクは、戦いなんて望んじゃいない!!ボクはただ楽しくマジックをしたいだけだ!」
「それがお前の望みか。ならば戦え。
 最後に生き残ったデュエルスターだけが、望みをかなえることができる」
「おい、おまえ人の話し聞いてないだろ!戦いたくないのが望みなのに、
 どうやって戦って望みをかなえるっていうんだよ!!」
「…………とにかく戦え、いいな」
 返答につまった謎の男は、それだけ言って姿を消した。
「何だったんだ?あいつは……」


「あいつの名は神崎土郎(どろう)、デュエルスターの戦いを仕組んだのは彼よ」
 謎の男に代わって、今度は黒宮サキが家さぶ店内に入ってくる。
 上下ともに黒で統一されたその姿は、まるで魔女のようである。
「神崎土郎だって!?」
 その名前におやっさんが反応する。
「知ってるんですか?」
「ああ、この名前を聞いたのは何年ぶりだろう。
 神崎土郎はかつては日本有数の強豪デュエリストであり、
 異常なまでの引きの強さから、「ドロー(Draw:カードを引く)の神」と呼ばれていた。
 彼の実力は世界でも有名で、今でもゲーム中にいいカードを運良く引いたときに
 海外では「Kanzaki’s Draw」と言ったりするという…」
 おやっさんは軽い豆知識を披露する。いっせいに「へぇ〜」とうなづく子どもたち。
「そんなに有名な人なんですか?でも知ってる人はおやっさん1人しかいないようだけど」
「神崎が活躍していたのは今から5、6年も前の頃だ。
 彼はライターとしてゲーム雑誌にマジックの記事を書いていたのだが、
 人間がマジックのカードからクリーチャーを現実に召喚するという、
 荒唐無稽な物語を書いて読者からの非難を浴び、そのまま業界を追放されたという」
 当時のRPGマガジン(現・ゲームぎゃざ)を奥の棚からとりだし、
 おやっさんはその記事をみなの前に広げる。
「クリーチャーを現実に召喚……デュエルスターか!!」
「神崎ドローは、スターデッキの存在をこのときすでに知っていたということか。
 そして秘密を知ったために、業界から抹殺された…」

 ざわ…
      ざわ…
             ざわ…

 家さぶの子どもたちの間に、濃密な緊張の波が走る。
「なぜ神崎ドローは、今になってデュエルスター同士の戦いを開始したんだろう?」
「それは、まったくの謎だ」
 おやっさんにそんなことがわかるわけもない。

「そんなことはどうだっていいわ。
大事なのは、戦いに勝ち残ればどんな願いもかなうということ」
 登場してひとこと言った後は無視されていた黒宮サキが、また注目を浴びるため、
衝撃的な発言をする。

「新城ユウキ!いまここであなたを始末するわ!!勝負よ!」

「それは卑怯だろ!」
「ユウキはたった今シザースと戦ったばかりなんだよ!」
 デュエルスペースの客たちから非難の声があがる。
「そうだったのか、お前がオレを新城ユウキと戦うようにけしかけたのはこのためか!」
 今はもう改心したシザースも、自分がユウキを消耗させるために利用されたことに
 気付いて怒りをあらわにする。
「今頃気付いたの? 相打ちになってくれるのが、一番だったんだけどね」
 サキは冷ややかな笑みを浮かべ、視線をユウキに向ける。
「さあ、戦いなさい!」

「いいよ」
 ユウキの答えは実にシンプルなものだった。
 その答えに、サキはもちろんシザースもおやっさんも他の客たちもあ然とする。
「こんな女の挑戦なんて受ける必要はないよ!」
「この間はどうにか勝ったけど、今の状態じゃ危ないよ!」
 そんな忠告にはあまり耳を貸さずにユウキはニコニコしている。
「ボクはマジックが好きだから。
 だから、マジックを一緒に遊びたいという人の申し込みは、いつでも受けるよ」
「フン、甘いわね新城ユウキ!
 この前はあなたにしてやられたけど、今日はそうはいかないわ」
 サキはスターデッキを構えた。たちまち周囲を闇が覆い始める。

「デュエルスター・ナイト!私を夜の闇に包め!!」
 こうしてまたデュエルが始まった。

 サキは先日と同様、黒騎士をトリックコンボで分身させる戦法をとる。
 瞬く間に、サキの場には数10体のクリーチャーが並んだ。
「じゃあ、<日中の光>を使います」
 ユウキがなにげに出したカードは、黒のクリーチャーによる攻撃を一切不可とする
 エンチャントだった。
「な、何よ!そんなカードがあるなんて聞いてないわよ!」
 急激にうろたえるサキ。
「そんなものを出されたら、どうしようもないじゃない!!
 わたしのデッキには、エンチャントを破壊できるカードなんて入ってないわよ!」
 元々黒の呪文カードには、相手のエンチャントやアーティファクトに対する
 防御手段がいっさいないのである。そういうゲームバランスになっているのだ。
「トリックコンボに対しては、こういう対処法だってあるんだよ」
 ユウキは初心者にゲームを教えるような口調で言った。
「黒宮さんは、本当はマジックを初めたばかりなんでしょ?」

「なんだって!?」
「確かに、<日中の光>の存在を知らなかったことといい…」
「言われて見ると、攻め方が非効率だ。デュエルスターだから何か意味があるのかと
 思ってたけど、ただ下手なだけだったのか」
「なるほど、それに気付いてたからユウキは簡単に勝負を受けたのか」

 観客たちから好き勝手に言われ、黒宮サキは屈辱で顔が真っ赤になっていた。
「マジックにはいろいろなカードがあって、戦い方も1つじゃない。
 こうやって色々な戦術やカードを使えることが、マジックのいいところなんだ。
 黒宮さんのトリックコンボは確かに強力だけど、そればかりに頼っていると、
 マジックの腕も上達しないし、同じことの繰り返しじゃ飽きちゃうよ」
 ユウキはその間にマジックの魅力について話している。
「お人よしね、あなた、敵である私の心配でもしてるつもり?」
「ボクは、同じマジックのプレイヤー同士が争いあうのは間違っていると思う。
 それがデュエルスターでも一緒さ。みんな仲良く遊ぼうよ。
黒宮さんもボクたちの仲間に入ろう。血で血を洗うような戦いより、
みんなで和気あいあい楽しく遊んでるほうがいい」
「楽しい…ですって」
 サキの黒髪が風もないのに宙に浮かび上がった。
「わたしは、マジックを楽しいだなんて思ったことは一度もないわ。
 それどころか、わたしはマジックが憎い。憎くてたまらない!」
 サキの感情の高ぶりがスターデッキに反応しているだろう、スターデッキが闇のオーラを放ち、周囲の人間たちの精神力を奪っていく。
「気をつけてください、ユウキさま!!」
 スターデッキからセーラが現れ、ユウキとサキの間に立ちふさがる。
「これがあなたの契約クリーチャーね、かわいらしいお嬢さんだこと。でもね!」
 サキの影から黒騎士が浮き上がる。
「プロテクション(白)を持ったわたしの黒騎士の敵じゃないわ!!」
 黒騎士が斧を振り上げてユウキに襲い掛かる。セーラは見ているだけだ。ゲームルール上、白のクリーチャーである<セラの天使>は、プロテクション(白) の能力を持つ<黒騎士>の攻撃をブロックすることができないのである。
「うわあっ!」
「ユウキさまっ!」
 だが、黒騎士はユウキを攻撃しなかった。それもそのはず、場のエンチャントである<日中の光>は、まだ効果を発揮しているのだから。代わりに黒騎士は、 テーブルを叩き壊した。
「な、なんてことをするんだ!!」
これではゲーム続行は不可能である。
「これでこの勝負はおあずづけよ、決着はこの次につけるわ!」
 サキは黒騎士の操る黒馬に飛び乗ると、高笑いを上げて退散していく。
ちょっと間抜けな典型的悪役のようだった。

「逃げたか…また店をこんなにしてくれちゃって……」
 おやっさんは嘆きつつも、客と一緒になって後片付けをしはじめる。
「ユウキさま、お怪我はありませんか?」
「だいじょうぶだよ、セーラ。それよりも…」
 ユウキには、サキの残した一言が忘れられなかった。

「わたしは、マジックを楽しいだなんて思ったことは一度もないわ。
 それどころか、わたしはマジックが憎い。憎くてたまらない!」


(黒宮さんはマジックを憎んでいる。なぜなんだ…!)
 マジックが大好きなユウキには、それがどうしてもわからなかった。楽しむことが目的のはずのカードゲームを、なぜ憎まなければならないのだろう。
 ユウキの心は痛んだ。それはデュエルスター同士の戦いで精神が消耗したためではなく、サキのマジックへの憎悪を見せ付けられたせいだった。

「ところでユウキ、この娘はお前が召喚したのか?」
 そこに声をかけてきたのはユウキのマジック仲間でクラスメイトの語部リンタロー(かたりべ・りんたろう)である。ちなみに男で、好きなデッキはゴブリン デッキという単純な設定の人物だ。前回シザースと戦ってデッキを真っ二つにされた太めの男の子とは、彼のことである。
 まあいつまでも観客とかマジック仲間とか呼ばわりもしょうがないので、名前をつけてみたよという感じか。
「そうだよ。名前はセーラっていって、<セラの天使>なんだ」
「こ、これは…す、すごすぎます!」
 今度はメガネをかけた博士タイプの男の子が寄ってきた。彼もまたユウキの友人で、名前は有留座ジロー(うるざ・じろう)。やっぱり男の子で、好きなデッ キはアーティファクトデッキというメカ好き電脳少年だ。
「見た目は僕たち普通の人間とまったく変わっていない。どのような原理なのでしょうか」
 好奇心旺盛なメガネをキラキラさせながら、ジローはセーラのまわりぐるぐる見回っている。セーラも困惑気味だ。
「あの、ちょっと…」
「うーん、違いといえばこの羽根だけど、素材はいったいなんなのでしょうか…」
「きゃっ!」
 羽根を触られて驚いたセーラは、ユウキの背後に逃げていく。
「助けてください!ユウキさま!」
「気にしないで、ジローはいつもあんな調子なんだよ」

「ちょっとメガネ!あんたがあんまり失礼なことするから、セーラさんが怖がってるじゃない!」
 みなさんお待ちかねの女子クラスメイトの登場である。この気の強そうなセリフからも想像できるように、3人目のキャラは姉御タイプだ。長い髪を何本かに 分けて束ねているのだが、歩くたびその髪がピコピコと揺れるのがかわいらしい。
「はじめましてセーラさん、あたしはユウキ君のクラスメイトの芽堂サチコ(めどう・さちこ)、ヨロシクね」
「はい、セーラです。よろしくお願いいたします」
 セーラが礼儀正しくお辞儀をするので、サチコもあわてて返した。すると傾けた頭から束ねた髪が、ボタボタと下りてくる。
「この子たちも、セーラさんに会えてうれしいって」
 自分の髪の毛を指してサチコは言った。電波だろうか。
「そ、そうなんですか…?」
 この少女も只者ではなさそうである。
「それにしても、セーラさんってカワイイ!ユウキ君もそう思うでしょ?」
「うん、確かに…」
 照れくさそうに言うユウキ。
「そんな…可愛いだなんて……」
 ぽっと頬を染めるセーラ。
「なんと、感情まで持ち合わせているのですか!?これはますますすごい!」
 ジローが興奮のあまり肩を上下させている。その度にメガネも上下する。
「こら、そんなジロジロ見るんじゃないの!!このスケベ」
「何を言っているんですか、私はただ純粋な好奇心からですね…」
「そーゆーのをスケベって言うのよ」

 そのやりとりを眩しそうに眺めている者がいた。
「仲間っていうものは、やっぱりいいものだな。新城ユウキ」
 もはや忘れかけていたが、元デュエルスターシザースこと蟹江シザースもまだこの場にいたのである。
「オレは過去のつらい思い出に囚われて、マジックは仲間と楽しむためのものだということを忘れていた。だけど、オレにそれを思い出させてくれたのはユウ キ、お前だ」
 シザースはこうして元の姿に戻ってみれば、けっこうなイケメンだった。
「ユウキ、オレは自分の犯した罪を償わなければならない。今までに荒らしてきたデュエルスペースを1軒ずつまわって、謝ってこようと思う。そして、次にこ こに戻ってきたときは、オレもお前の仲間に入れて欲しい。」
「シザース、君だってもうボク達の仲間だよ!」
 ユウキが優しく微笑みかけた。
「しかし、オレはこの店でも対戦相手のデッキを真っ二つにしてしまった……」

「かまわないぜ、別に」
 語部リンタローが言った。
「ウチ、金持ちだから」
 うっそー、そんなことで許されるのかよ!
「さすがゴブリン、太っ腹ね」
「ええ、見た目通りの太っ腹ですね」
 ジローとサチコが交互に褒めたのかけなしているのかわからないことを言う。ちなみにゴブリンというのが彼のあだ名である。なんて安直なんだろう。

「ありがとう、みんな…ありがとう!」
 シザースは泣き崩れた。マジックで仲間はずれにされて泣いた悔し涙ではなく、仲間たちの優しさに打たれた感動の涙を流しているのだ。

 こうして、デュエルスター・シザースはデュエルスターの戦いから姿を消した。
 ユウキの友達の紹介も一通り終わって。再びデュエルスペースには平和が戻ったのだった。



 一方、東京は新宿副都心にそびえる高層ビル街でひときわ異彩を放つ巨大な塔がある。
 この塔こそ、マジック・ザ・ギャザリングの販売その他を行っている謎の企業・ウィザードブレイン社の日本支部である。
 その会議室は今、ひみつ会議のまっただ中であった。

「デュエルスターによるデュエルスペースでの破壊行動により、これまでに20数名のプロプレイヤーが倒され、カードを奪われています」
 奥のプロジェクターには、そのときの写真が映し出されている。もともと写りがよくないものを引き伸ばしたためか顔ははっきりとわからないが、真っ赤なド ラゴンに乗った少年が店内で大暴れしているところを撮ったものだ。店内のあちこちにはすでに火が回っている。
「被害はプレイヤーに留まりません、何軒ものデュエルスペースが破壊され、営業不能に陥っています」
「このままでは、日本でのマジックの売り上げにも影響が出るかと……」
 日本支部といっても社員のほとんどは日本人だったりするし、会議の内容だってそんな悪の秘密結社みたいな派手なものでもなかったりする。ただ損害報告を 読み上げてるだけの地味なものだった。
「それで、本社では何と言ってきているのかね。ミスター」
 責任者らしき人物が、末席に座っていた人物に声をかけた。

「即刻デュエルスターを排除し、スターデッキを回収せよ。それが本社の命令です」
 他の一般社員はいたって普通の背広姿にもかかわらず、彼だけは魔法使いのように古ぼけたローブをまとっていた。顔はよく見えないが、声から判断すると若 そうだ。
「しかしですね、デュエルスターを倒してデッキを奪うのはとても難しい。言葉で言うほど簡単なことではない」
「まったくだ。本社はいったい何を考えているのかね」
 社員たちの非難に対して、ローブの青年は肩を震わせている。どうやら笑っているらしい。
「なにがおかしいんだ!」
「すみません、あまりに予想通りの反応だったものですから。でもまあ安心してください。本社でも、初めからあなたがたには期待していませんし」
「な、何だと!本社からのエージェントだというから黙って聞いていればいい気になって!!」
 相手をなめきっている態度の青年に対し、まあ縦社会に慣れた日本の社員たちは怒るわな。
「まあまあ、お気を静めてください。あなたがたにはこれまで通り日本でのマジックの販売や営業に精を出していただいて、デュエルスターはわたしの方に任せ てください」
 青年は指を鳴らした。
 すると、大きな音ともに会議室のドアが破られ、上半身ハダカの大男が入ってくる。肌は黒く輝き、顔は野獣のように獰猛である。
「わたしが本社から連れてきた、対デュエルスター用のファイターです。
 だいじょうぶ、こう見えても少しなら日本語も話せるんですよ」
 青年に促され、大男は会議室にのしのしと入ってくる。さっきまでは威勢のよかった日本人社員たちも、この大男を見た瞬間に恐怖で固まってしまったよう だ。

「ボブタップです。ヨロシク」

 大男はあやしげなイントネーションで自己紹介してみせた。ニッコリと笑った顔には意外と愛嬌がある。
「あ、どうも橋本といいます」
 いたって普通の日本人代表の橋本さん(41歳)がおそるおそる握手を交わす。
「よ、よろしくお願いします。ひいいぃッ!」
 突然にボブタップの顔が凶暴な目つきにかわり、橋本さんは腰を抜かす。ボブタップはそのリアクションに満足そうに笑みを浮かべた。どうやらジョークのつ もりらしかった。
 なるほど凶暴そうな外見と裏腹にユーモアの精神も持ち合わせたおもしろい男だ。

「どうです?この男なら相手がデュエルスターであっても、負けることはないでしょう」
「しかし、マジックの腕前を見せていただかないと…」
 あれだけのパフォーマンスを見せ付けられながらも言い返す気力があるところは、さすがはジャパニーズサラリーマンである。
「それもそうですね。だれか、ボブタップと戦いたいという方はいらっしゃいませんか?」
 誰も手を挙げるものはいなかった。そりゃまあそうだろう。
「橋本くん、ウチの竜王を呼びたまえ」
 震えた声で支部長が橋本に声をかけた。
「は、はいわかりました。も、もしもし竜王くんを呼んでくれたまえ」
 数分後、猫背で目つきの悪い青年が入ってきた。
 彼はウィザードブレイン日本支社の社員にして、マジックのプロモーション活動をしているスタッフの1人である。現日本チャンピオンで、竜王名人と称して 少年漫画誌に登場したり、雑誌にコラムを書いたりしている人気者だ。マンガではカッコいい青年なのに、見た目は根暗そうな男である。メディアの姿と現実の ギャップが甚だしい。
「はあ、なんでしょうか」
「竜王名人、さっそくだがこの男と戦ってもらいたい」
「えっ……マジですか?」
 さすがの竜王名人も、ボブタップの姿にはビビっている。
「彼は日本のチャンピオンですか。なるほど、ボブタップの相手としてはまずまずですね。
 まあ、世界のレベルというものを見せてさしあげましょう」
「なんなんですか、こいつは?」
 竜王名人は機嫌が悪いようだった。というのもさっきまで仕事をサボってインターネットを見ていたら、【竜王が嫌いな香具師の数→(1001)】というス レッドを発見してしまい、そこのアンチの書き込みを読んで猛烈に腹を立てていたところだったのである。
「マジックで勝負すればいいんですね。わかりましたよ」
 二人は会議室の真ん中に机を寄せて、そこで勝負を開始した。
(ムカつくぜ、こういうときはこのデッキを使って相手をイジメぬいてやる)
 竜王名人は得意なロック系のデッキを持ってきていた。彼の得意な戦術というのは、相手の行動を阻害して相手を反撃不能に追い込んでから、じわりじわりと 相手のライフやライブラリ(山札)を削っていくというものだった。陰険な性格がモロに現れているうえに、小学生相手にそんな戦い方をするからアンチスレが 立ったりするのだが本人は気付いてないらしい。
(この大男だって、オレにかかれば赤ん坊も同然。このデカブツが涙目になって命乞いをする姿が目に浮かぶようだぜ)
 よくもまあ、ボブタップ相手にそんな妄想が描けるものである。
「では、勝負をはじめてください」


 10秒後。
「竜王が、負けた…」
 会議室がざわついた。
「バカな、開始してまだ10秒だぞ。竜王ほどの者が、そんな簡単に負けるはずが…」
「開始1ターンでノックアウトだと…、あいつは見た目通りの化け物だ!」
 まあそういうことです。1ターンキルです。
 竜王名人は机から10数メートル離れた壁に叩きつけられて白目向いてぶっ倒れてます。
「どうです、ボブタップの実力は?これでわかっていただけましたか」
 さすがに反論は出なかった。
 さて、ボブタップがどのようにして竜王名人を1ターンでKOしたのか、そのプロセスを紹介しよう。少し難しいかも知れないが、マジックのルールに詳しく ない人も我慢して読んで欲しい。

 先攻 ボブサップ 後攻 竜王名人
 1ターン目
・<山>セット
・<怒り狂うゴブリン>召喚
・<怒り狂うゴブリン>で攻撃(速攻つきのため)
 ライフ 竜王名人:0
 勝者 ボブサップ

 これだけで終わりである。ルールを知らない人に説明すると、最初の攻撃だけで竜王名人はライフが0になって負けたということである。
「いったい、何が起こったんだ…?」
「バカな、<怒り狂うゴブリン>のパワーはたったの1だ。ラディッツから見たらゴミ以下だぞ」
「なぜそれだけの攻撃で、竜王が負けなければならないのだ?」

「単純なことですよ」
 ローブの青年が日本語のつたないボブタップに代わって説明する。


「パワーが1しかないクリーチャーでも、ボブタップのすさまじい腕力でタッ プすれば、 そのパワーは何十倍にも強くなる。攻撃の瞬間、<怒り狂うゴブリ ン>のパワーは87にまで増強していた」


 なんと、ただの力技かよ!
 しかし、シンプルであるがゆえに強力で隙がない。
 ゲーム開始直後の1ターン目に先攻でこれをやられた日には、どんなプレイヤーでも太刀打ちできない。
「そ、そんなバカな…!」
「我々の常識を超えている……!!」
 日本人社員たちは空いた口がふさがらない。
「デュエルスターの圧倒的な力に対抗するには、こちらもそれを上回る力を用意しなければなりません。それが本社の意向です」
 日本人社員たちは改めてボブタップの姿に恐怖した。
 ボブタップは竜王名人の残したデッキを指でつまみ上げると、ぶちっ!と指で挟んだ箇所だけを引きちぎって見せた。こんなことができるのは日本ではあと花 山薫くらいだろう。まちがっても花菱薫には不可能だ。
 さらに、ボブタップはサンドイッチでも食べるかのようにデッキをパクついている。ああしかもマスタードまでかけてるよ。もうおかしすぎこの野獣は。

(本社はいったい、何を考えているんだ。こんな化け物まで送り込んでくるなんて…)
 その場にいた日本人社員たちは誰もがそう思った。するとローブの青年はそれを見透かしたかのように、
「あなたがたは知らなくてもいいことです。あなたがたは、ただ日本でマジックを販売してくれればいい。余計な詮索はしない方が見のためですよ」
 と忠告した。彼は本当に他人の思考を読んだのだろうか?彼はその見た目通りに、本当に魔法使いなのだろうか?
「さて、行きましょうか。デュエルスターを狩りに」
 青年の言葉に、ボブタップが低く吠えた。

 敵はデュエルスター以外にもいた。
 ウィザードブレイン本社の送り込んだ刺客・ボブタップ。
 その強靭なパワーから放たれる攻撃に、果たして対抗する術はあるのだろうか?




 次回予告
 圧倒的なパワーを持つボブタップに対抗するべく開発された、対ボブタップ用最終人型決戦兵器、その名はロボタップ。
 野獣と機獣の大激突に、デュエルスペースは炎に包まれた!!

 次回 デュエルスターユウキ 「黒い弾丸特急!野獣ボブタップ迎撃作戦!!」(仮)




 デュエルスターのコンボ講座

 第3回 「マッスルコンボ」

 今回は、ボブタップの用いたマッスルコンボを紹介します。
 つーかコンボですらないんだが。
 あのね、まずこれを使いたい人はボブタップに負けない肉体づくりをしてください。格闘技も覚えてもらえるとさらにいいです。
 それでまあデュエルになったら、
「怒り狂うゴブリンで攻撃、オレの筋肉ボーナスを足してパワー20ね」
 とか何とか宣言しましょう。
 相手が文句なんか言ってこようものなら、あなたのその筋肉にものを言わせて、
「何か文句あんのかゴラァ!」
 と吠えましょう。ジャッジも脅かしましょう。実際にボブタップ並みの力があるのなら、みんなあなたを恐れて異を唱えたりはしません。

 えーと、マジックはスポーツマンシップに乗っ取って正々堂々と遊びましょうね。



 戻る